相手を説得させたいのに上手くできず悩んでいませんか?
「企画が通らなかったのは自分に説得力がないからだ」
「説得の技術さえ習得すれば今よりもっと売れるはず」
このように考えていないでしょうか。はじめに言ってしまうと、説得は相手を好きなようにコントールできる魔法の技術ではありません。
「説得」という言葉の意味を知らず、本質的な部分を見落としていてはいつまで経っても相手を説得させることはできないでしょう。
一方で説得を正しく理解し、使いこなせるようになれば、仕事の効率を飛躍的に向上させることができます。
そこでこの記事では「説得」とは何なのか、また上手に相手を説得するためにどうすれば良いのかを紹介します。
説得とは何か?
説得と聞くと、自分の意見や要望を押し通すための手段と考える方もいるのではないでしょうか。しかしそうではありません。国語辞典によると説得は次のように説明されています。
話して なっとくさせること。
三省堂国語辞典 第七版
なっとく(=納得)という言葉がでてきましたね。納得は誰かに強制されてするものではありません。その人自身が理解し、前向きな気持ちをもってするものです。
つまり説得とは、あなたの話によって相手の気持ちや行動に前向きな変化があらわれるようにする働きかけをいいます。
相手が納得しないのに行動させようとすることは単なる強要や支配です。まずは説得の本来の意味を頭に入れておきましょう。
説得するために必要な3つの考え方
前述のように説得は、一方的な行為ではなく、相手ありきで考える非常に奥深い手法です。その分、成功した時の効果は抜群ですよね。
それでは、説得を上手に行うにはどうすればよいのでしょうか。実は、あまり難しく考える必要はありません。
まずは、説得をする際に必要な次の3つの考え方を理解しておきましょう。
それぞれについて解説します。
信頼関係を構築する
説得には、説得する側のあなたとされる側の相手が存在します。あなたの要望を相手方が理解し納得するためには、両者の間に信頼関係がなければなりません。
例えば、いきなり訪問して「この商品を買ってください!」とお願いしても余程の事情が無い限り上手くはいきませんよね。
どんなに素晴らしい商品でも信頼関係がないと、「売りつけられる」や「あやしい」などの警戒心が先にきてしまいます。
しかし、そこに信頼関係があればどうでしょう。
「○○さんが言うのであれば。」と交渉がスムーズに進むこともあるのではないでしょうか。
このように、説得を行うにあたっては、信頼関係の構築がとても大切になります。
ベネフィットを提示する
説得を受け入れてもらいやすくするためには、その説得を受け入れることで得られる利益(=ベネフィット)を論理的かつ具体的に伝えるようにします。
例えば「この調理器は最新式で高機能なんですよ」と言われるより「この調理器を使うことで忙しい朝の時間を30分も短縮できますよ」と言われた方が購入意欲をそそられますよね?
前者は「最新式」や「高機能」というフワっとした言葉を並べただけでいまいち良さが伝わりません。一方後者はなぜこの商品を選ぶべきなのか明確な理由が述べられています。
相手方にとって説得を受け入れるだけのメリットがあるかどうかは非常に重要な判断材料です。そしてそのメリットが大きくイメージしやすいものであるほど相手方の納得を得やすくなります。
ただ単に商品やサービスの特徴を挙げて説明するのではなく、相手が何を求めているのかを考え、明確にベネフィットを提示することが大切です。
頭ではなく心に訴えかける
「説得が上手な人」と聞いてあなたはどんな人物をイメージしますか? 物事を論理立てて説明できるような話し上手な人でしょうか。
確かに、数字などの具体的な根拠を示したり論理的に物事を説明したりすることは説得をする上で必要な技術です。しかし、人は正論だけでは動きません。そこには血の通った温かさも必要です。
「感情的になってはいけない」とよく言われますが、人間の脳は機械とは違います。どんなに論理的に導き出された答えでも「どうも釈然としない」と直感で決断を下すこともあります。
ある神経科学の研究では人間は何か物事を判断する際、論理的に判断するのではなく、脳の感情的部位を使って判断しているという報告があります。
我々は頭で判断しているように思えても、 心の判断が非常に大きいのです。 そのため、説得をする時は論理的に話すだけでなく、温かみが伝わるよう心に響く話し方を意識するようにしましょう。
説得はアリストテレスも説いている
前項では説得に必要な3つの考え方を紹介しました。
具体的には「信頼関係を構築する」「ベネフィットを提示する」「頭ではなく心に訴えかける」の3つです。
実はこの3つの考え方は、かの有名な哲学者アリストテレスも説得に重要な3要素として「エートス」「パトス」「ロゴス」を説いています。
エートスは信頼、パトスは感情、ロゴスは論理のことです。そしてアリストテレスによるとエートス、パトス、ロゴスの順番も大事だと言います。
まず人の話を聞こうと思うには信頼(エートス)がなきゃダメだよね。そして心が動く(パトス)からこそ前向きに考えられて、論理的(ロゴス)で具体性があるから理解してもらえるのよ。
アリストテレスが生きたのは2500年近くも昔ですが、説得においてこれらの3要素が重要だということはご理解いただけたのではないでしょうか。
説得に使える5つの心理テクニック
ビジネスにおいては成功へと繋げるために様々な手法が用いられます。その中でも、心理学の法則は非常に有効的に活用できるテクニックです。
そこでここからは説得に使える5つの心理テクニックを紹介します。使い方次第ではより説得を成功へと近づけることが出来ますので、ぜひ覚えておきましょう。
フット・イン・ザ・ドア
最初に紹介する心理テクニックは「フット・イン・ザ・ドア」です。何とも不思議なネーミングですね。
実はこれ、訪問販売員が、呼び鈴を押しドアが開いて「片足をドアの中に入れさえすれば、商品を販売出来る」と言う考え方から付けられたネーミングなのです。
要するに、まずは実現の可能性が高い小さな要求から始めて、最終的には本来の目的である大きな要求を実現させるものです。
ここには、人は一度要求を呑んでしまうと次の要求が断りにくいと言う心理効果が働いています。心当たりがある方もいるのではないでしょうか?
例えば、「1週間の無料お試し」が良い例です。
1週間の無料お試しを利用してしまうと、その後の勧誘を断りづらくなってしまい、つい契約してしまう人がいます。
このように説得は段階を踏むことも有効な手法と言えるでしょう。
損失回避の法則
「損失回避の法則」は、人間は無意識のうちに利益を求める以上に損することを避けたがると言う心理学の法則です。
例えば、サイコロを振って奇数の目が出たら3万円もらえる、しかし偶数の目が出たら反対に2万円払わなくてはならない。
もしも、こんなチャレンジがあったらどうしますか?
お金に余裕がある方なら問題ないでしょうが、この場合、多くの方は参加しないことがわかっています。
3万円ともらえる金額の方が高いのですが、それ以上に2万円を損したくないと言う心理が強く働くからなんですね。
実は、このテクニックもさりげなく日常で見かけることがあります。
「本日限り5割引き」「残り3つ」など、どうでしょう? 見覚えがある方もいるのではないでしょうか。
今日を逃すと割引きがなくなってしまう。二度と手に入れることが出来なくなってしまう。このように損失を回避しようとして、つい商品を購入してしまうのです。
説得においても、希少性などを交えてこの損失回避を上手く利用すると良いでしょう。
ラベリング
ラベリングとは、「あなたは〇〇な性格だ」という周囲の評価によって、あたかも貼られたラベルに従うかのように行動をとってしまう心理をいいます。
例えば少し気になる人から「〇〇さんは、優しいですね」と言われたのがきっかけで、優しい自分を演じてしまったなどという経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
こうした効果を狙って、ラベリングはビジネスでも巧みに利用されています。
例えば、取引先の会社にシステムの導入を勧める際、
「幅広い知見をお持ちの〇〇さんであれば、このシステムの良さはご理解いただけると思います。ご提案以上の活用事例もお考えかも知れませんね」
などと言われると「そっか。私は幅広い知見を持っていてシステムの良さも理解しているんだ」と考えそのように振る舞うかもしれません。
説得を成功させるために、あらかじめ導きたいと思う方向に相手をラベリングしてしまうのもひとつの手段です。
ピーク・テクニック
ピークとは英語で「pique」とつづり、意味としては興味をそそること。相手に「おや?」と感じさせることで、より興味を引かせる心理テクニックです。
テレビコマーシャルでも、「何だこれ?」と感じさせるようなCMのインパクトは非常に効果的ですよね。
ビジネスにおいてもなかなか相手にされない相手に対して、ピークテクニックを使うことで興味をもってもらうことが可能です。
例えばセールスマンに「5分だけお時間ください」と言われたところで、興味を持つことは少ないでしょう。しかし、「ランチが半額になるクーポン券を無料でお配りしているのですが、5分だけお時間いただけませんか」と言われたらどうでしょうか。
半額という言葉に思わず反応して、「5分だけなら」とつい話を聞いてしまう人もいるはずです。このようにまずは相手に興味をもってもらうつかみをすることも説得においては大事なことです。
アンダー・ザ・レーダー
人間は「何か怪しい」と感じるものに独自の危険察知のレーダーを働かせています。アンダー・ザ・レーダーは、そうした危険察知のレーダーを潜り抜けて接近する心理テクニックです。
例えば、パソコンを購入する際、「ご一緒にウィルス対策ソフトもいかがですか?」と言われると「売りつけられる!」という感覚が真っ先に働きますよね。
これがもし「ウィルス対策ソフトは付けなくても大丈夫ですか?」という言い方だったらどうでしょう。
売りつけられるという感覚にはならず、「あぁ、確かにウィルスは怖いな」と考える余地が生まれるのではないでしょうか。
このように相手にセールスであることを感じさせない工夫をすることで説得の成功率を高めることができます。さりげなく、慎重に相手のレーダーをかいくぐることを意識しましょう。
まとめ
プレゼンや営業などこれまでなかなか思うような成果を出せなかった方でも、説得を正しく理解し実践することでより良い結果を得られることでしょう。
ただし、本文で紹介した心理テクニックは説得の成功確率を上げるための方法論に過ぎません。人対人という相手方とのコミュニケーションが大切だという原則を忘れないでください。
相手を前向きな気持ちにさせ、行動してもらうための働きかけが説得です。相手を理解し、尊重することが正しい説得の近道だと言えるでしょう。
というわけで今回は説得について紹介しました!