この記事では、パワハラ(パワーハラスメント)と思われる行為を受けた場合に、そのパワハラをやめてもらうための方法を紹介している。
そのため、「パワハラする相手を訴える方法を知りたい」というような、すでに相手との関係が破綻した問題については取り扱っていない。
パワハラ、またはそう受け取れる行為を受けた場合に、職場での人間関係を維持しつつも、パワハラをやめてもらうための方法のみ紹介する。
そもそもパワハラとは
パワハラ、パワーハラスメントとは、以下のような行為をいう。
同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為
出典:厚生労働省 職場のパワーハラスメントについて「職務上の地位や人間関係などの職場の優位性」とあるが、これは上司から部下に対するものに限った話ではない。例えば職場で唯一パソコンが得意な部下が、パソコンが苦手な上司に対し「パソコンもろくに使えないんですか。生きてる価値ないっすよ」というような発言も「職場の優位性」を背景にするパワハラ行為に該当する。
もうひとつ。「~ハラスメント」というと、セクシュアルハラスメントに代表されるように、「自身の尊厳を傷つけられた」というものすべてが該当するように思える。しかし、パワハラについては、業務上必要な指示や注意・指導が行われている場合は該当せず、「業務の適正な範囲」を超える行為がパワハラに該当する。例えば、業務に必要なため出張や転勤を命ぜられることや、ミスについて再発防止策を考えさせられることは業務上必要なことなのでパワハラではない。
なお、この記事ではパワハラの悩みのほとんどが上司から部下に対するものであるため、パワハラする側を「上司」、される側を「部下」と想定して以下記述する。
パワーハラスメントの6類型
厚生労働省では、パワハラを次の6類型で分類している。ただし、これら6類型がパワハラの定義をすべて網羅しているわけではない。
身体的な攻撃
物を投げる、殴る蹴るなど、身体に攻撃を与えるような暴行、傷害などの行為。もっとも、このような行為を受けた場合は、会話術などの前に警察に相談し身の安全を確保することを優先してほしい。
精神的な攻撃
脅す、名誉を傷つける、バカにする、暴言を浴びせる、などの行為。この記事では、主にこのような精神的な攻撃があった場合についての対処法を紹介する。
人間関係からの切り離し
無視をする、仲間外れにする、別室で作業させるなどのハラスメント行為。この行為については、会話術によって解決を図ることもできなくはないが、職場や外部の相談窓口と連携した方が早い。
過大な要求
物理的に不可能な量の仕事を押し付けたり、強制させたりするハラスメント行為。この「過大」というところの線引きが難しく、個別的な事情等も勘案する必要がある。
過小な要求
本来の業務とは無関係な作業をさせる、または何の仕事も与えないようなハラスメント行為。これも「過大な要求」同様、どういった背景があってそうなっているのかなど、一律的な判断が難しい。
個の侵害
プライベートなことに立ち入るようなハラスメント行為。これは、パワハラ行為をする側が、仕事とプライベートの境界線を認識できていないことがあるため、会話術をもって対処することも可能ではある。
会話術を使ったパワハラ対処法
念のため断っておくが、これから紹介する方法は、パワハラをされた時に「こうあるべき」という”べき論”を語ったものではない。冒頭で述べたように、あくまでも職場での人間関係を維持したまま、パワハラをやめてもらうための方法であるということに留意してほしい。
今の状況が精神的に耐えられない、相手との人間関係の修復は望んでいない、という方はどうか無理せず、社内や社外に用意されている窓口に相談してほしい。社外の相談窓口については、厚生労働省が用意している以下のページが役立つはずだ。
https://no-pawahara.mhlw.go.jp/inquiry-counter
教えてもらう姿勢を貫く
パワハラをする側は、心から相手に対して嫌がらせをしてやろうと思ってする場合とそうでない場合がある。そうでない場合というのは「注意や指導」のつもりだった、というものである。しかし、前者の場合でも相手に「これは、お前への嫌がらだ」と口に出す人はほとんどいない。建て前上は「注意や指導」としてされることが多い。
部下「……といいますと」
上司「は? 自分でわかんねーのかよ。内容がめちゃくちゃなんだよ、メチャクチャ! 小学生以下なんだよ」
部下「申し訳ありません」
上司「ったく、だからお前はダメなんだよ。この間だって(以下略)」
それならば、この注意や指導を真に受けて、何が足りないのか、何がいけなかったのかを教えてもらう姿勢を貫けば相手の意表を突くことができる。
部下「申し訳ありませんでした。あの、よろしければ具体的にどの部分がめちゃくちゃなのか教えてもらえますか?」
上司「お前何いってんの。自分で作ったくせにそんなこともわからねーの?」
部下「はい。自分ではわかりませんでした。何がそんなにめちゃくちゃなのか、ご教示いただけますでしょうか」
上司「だから、自分で考えろよ」
部下「このまま提出して、また〇〇さんのお手をわずらわせたくありません。どこがめちゃくちゃなのか、具体的に教えてください」
上司「……もういいよ! 今回はこっちでやるから」
注意・指導の内容が明確であれば、そもそもパワハラ問題に発展しない。このケースでも、「内容がめちゃくちゃ」ではなく「3ページ目に誤字がある」とか「顧客のニーズとあっていない」など、注意が具体的であれば、パワハラとは感じないだろう。
注意・指導を理由にするパワハラは、具体性に欠けることが特徴だ。「全然ダメ」とか「話にならない」といった抽象的な表現が使われる場合は、「嫌がらせ」や「揚げ足取り」の意図がある可能性が大きい。
しかし、早々に「これはパワハラだ!」と決めつけ反論するのではなく、まずは教えてもらう姿勢を貫くことで、その真意がみえてくる。本当に注意・指導でしていることなら、何がよくないのか具体的に教えてくれる。そうでないのなら上記のように「面倒くさい」と思われて、以後同じようなパワハラはなくなるはずである。
パワハラ発言について認識してもらう
パワハラをする側は、衝動的にその行為に及んでいることがある。相手を叱るときに暴言が口癖になっているような人に対しては、その発言がパワハラであるということを認識してもらうよう働きかける。この時「それはパワハラですよ」ということもできるが、穏便に済ますなら、質問形式にした方がいい。
部下「申し訳ありません。確認して書き直します。ところで、小学生以下というのはどういう意味でしょうか」
上司「そのままの意味だろう」
部下「私は小学生以下なのでしょうか」
上司「……ちょっとした言葉のあやだろ。ったく」
パワハラをする側に、その意識がないのであれば、パワハラされた側がその発言を何度か口に出してみて、相手の反応をうかがう。「つい、言ってしまった」ということであれば、すぐに訂正するか、気まずくなって、話を逸らすことになる。
自分の気持ちを伝える
パワハラをされる側の人によっては、くやしさと悲しさのあまり、つい感情的になって言い返してしまう人がいる。しかし、それでは火に油を注ぐだけである。
部下「その言い方、ちょっと酷くないですか?!人のことバカにしてるんですか?」
上司「だって、そうだろ! お前、自分が仕事できないのを棚に上げて、反抗してんじゃねーよ!」
何事においても喧嘩腰で対応して良いことはひとつもない。また、相手の行為を批判する言い方もますます反感を買うことになり逆効果である。まずはこちら側が冷静になり、パワハラ行為に対してのみ、「やめてほしい」ということを伝えるようにする。
部下「申し訳ありません。確認して書き直します。ところで、小学生以下、と言われるのはバカにされたようですごく悲しい気持ちになります。やめてもらえませんか」
上司「なんでだよ、本当のことだろう」
部下「ミスがあったことは認めます。しかし、小学生以下、という言葉に私は傷つきました。とても悲しいです。次からは言わないでもらえますか」
上司「わかったわかった、もう言わねえから。はやく書き直してこい」
自分がどう感じたか、どのように思ったか、ということは、他人が否定できるものではない。人の気持ちは、その人自身の中にあり、他人の支配が及ばないからである。
そこで、やめてほしい行為について、率直に自分の気持ちを伝えることで、それ以上のパワハラ行為を阻止することができる。「私は傷ついた」という自分の気持ちに対し、相手が「それは違う」と否定することはできないのである。
相手の気持ちを勝手に推測しない
これは、会話術ではなく、マインド面での話である。
決定的なパワハラ行為がなくても、相手の表情、言動、行動から「ひょっとしたら嫌われているのではないか」とネガティブに考えてしまう人がいる。これは上司部下に限ったことではなく、同僚、友達、夫婦などすべての人間関係において同じことである。
相手の気持ちを察することは悪いことではない。しかし、実際に確認したわけでもないのに「もしかしたら」と常にマイナス方向に推測するのは精神衛生上良くない。このような思考が癖になると、「あの人には何を言っても無駄だ」、「どうせまた同じことを言われる」と自分の都合の良いように解釈し、ストレスをため込むことになる。
自分で勝手な推測をしたにもかかわらず、これでは本末転倒である。そうならないためにも、やはり対話は大事である。決定的なパワハラ行為がないのであれば、まずは相手がどういう気持ちなのか、質問したり、話し合ったりすることで誤解が解け、悩みが解決するということもある。
僕も同じような経験をしたことがある。相手はちっとも自分のことを悪く思っていないのに、勝手に推測して話をこじらせてしまったということが。この話は以下の記事で詳しく述べているので、よろしければそちらも参考にしてもらればと思う。
https://atama.co.jp/entry/seizensetsu/
まとめ
暴力や傷害、仲間外れのようなパワハラは、行為が決定的だし、意図してその行為に及んでいることの方が多い。そのため、会話術以前に、第三者を間に挟み解決を図ることが望ましい。
反対にそれ以外の類型については、パワハラとの線引きがあいまいなことが多い。よって、真意を確かめたり、パワハラ行為そのものを否定する行動にでたりすることで、相手がパワハラを自覚し、問題が解決することもある。今回紹介した会話術はそういうシーンにおいて、力を発揮してくれるはずだ。
しかしながら、それでもパワハラされる側は、精神的につらい、苦しい、ということがある(それがたとえ意図的なものでない、パワハラの定義から外れる場合でもだ)。そういう時は一人で抱え込まず、社内外の相談窓口に相談するなどして解決を図ってほしい。
「そこまではちょっと……。でも誰かに話しを聞いてもらいたい」という方はこのブログのコメント欄や、Twitterに連絡してほしい。僕のこれまでの経験で何か役立てることがあれば、アドバイスなどしたいと思う。