コールセンターの受電窓口だと電話をとった瞬間「社長を出せ!」なんて言われてしまうことがある。
「どうしよう、絶対ただのクレームじゃないよ。でも社長なんか出せないし……(ていうかここにはいないし)」
悩んだ末上司に相談しても「社長なんか出せない、って言え」とあしらわれ、困惑しているオペレーターさんをよくみかける。
そこで、この記事では「社長を出せ」と言われた時の対処法について説明する。
それ、本当に社長と話がしたいんですか?
結論からいうと、この手のクレームは、ほとんどの場合オペレーターの対応だけでおさめることができる。
そもそも、一般企業の社長は忙しくて電話対応なんかできないし、仮に電話に出たところで上手なクレーム対応ができるとも思えない。そして、そんなことはコールセンターに勤めていない人であっても当然にわかっていることだ。
つまり、こうしたクレームを言ってくるお客さまは何も本気で社長と喋りたいわけではない。逆に本当に社長がでてきたら「お、おう」と戸惑う人の方が多いことだろう(そういうお客さまの姿も見てみたい気はするが)。
では社長を出せ、というお客さまの心理はどういったものなのか。考えられる理由をいくつかあげてみよう。
- とにかくこの不満の気持ちをわかってほしい、という意思の表れ
- 責任をもって対処してほしい、という牽制を目的としたもの
- 電話オペレーターでは解決ができない、話にならない、などの決めつけ
いずれも「普通のクレームとは違うんだぞ」ということを相手に伝えるために「社長」というキーワードを出し、その思いを伝えようとしていることがわかる。ということは、これらの心理を理解し、まずはその思いに寄り添うことで解決への糸口がみつかるのではないだろうか。
状況を確認しなければ話は先には進まない
普通のクレームとは違う、ということだからお客さまにとっては余程のことが起こったのだろう。
製品が発火して大怪我を負ったのかもしれないし、誤案内が原因で大金を損失したのかもしれない。
ただ、どんな理由であれ、まずお客さまの口からハッキリと何が起こったのか、何に不満を抱いたのかを聞かなければ、話を先に進めることができない。仮に社長が出てくることができたとしても「で、ご用件はなんですか」となってしまう。
そこで、ちょっと想像してもらいたいのだが、もし、自分の友達や家族が「ほんとムカつく!明日会社辞めるわ!」と言ってきたら、みなさんはどのような反応をするだろうか。
おそらく「会社を辞める」というキーワードはあまり気にしないで、「どうした?何かあった?」と応えるのではないだろうか。
つまり、「社長を出せ!」の「社長」というキーワードも、本心から出たものではない。それを前提に考えると、まず耳を傾けるべきは、「社長」というキーワードを出してまで訴えたい不満を聞き出すことである。
間違っても「社長は電話に出られません」とか「ここにはおりませんので」などとは言ってはいけない。「そんなことはわかってる!!」と火に油を注ぐだけだ。
社長を出せ! に対するトーク例
「社長を出せ」と言われたら、まず何に対して不満を抱いているのか、可能な限り聞き出す努力をしてみよう。以下にトーク例を作成したので、参考にしてもらいたい。
「…社長でございますね。失礼ですが、何かございましたでしょうか」
最初はこれだけで十分である。すると次のようなパターンで返答があるはずだ。
「お前じゃ話にならんから、はよ社長だせや」
「さようでございますか。何かわたくしどもの対応に不手際があったということであれば、わたくしが責任をもってお聞きいたします。よろしければ、お聞かせ願えませんでしょうか」
「何かございましたかじゃねーだろ。ふざけてるのか!」
「ご不快な思いをさせて申し訳ございません。何かわたくしどもの対応に不手際があったということであれば、わたくしが責任をもってお聞きいたします。よろしければ、お聞かせ願えませんでしょうか」
いずれにしても、そこでひるむことなく、何があったかをきちんと聞き出すことに努めてもらいたい。また、「責任をもって話を聞く」といった姿勢を明確に示すことも忘れないでほしい。
これは、責任の所在を明らかにする意味があるが「じゃあ、お前でなんとかしてくれるんだろうな?」のように揚げ足をとるお客さまもいるだろう。しかし、それには耳を傾けず「会社として、できることはいたします。そのために、まずは何があったかお話しいただけますでしょうか」と食い下がればいい。
僕の経験上、ほとんどがこの対応で不満を言ってきてくれる。そうなれば、こっちのもので、あとは最後まで親身になって話を聞くだけだ。そして、こうしたクレームほど大した内容じゃないことが多い。要は見掛け倒し、ということである。
しかし、たとえ小さな不満や、理不尽な内容だったとしても、お客さまは「社長」というキーワードを持ち出すほど重大な不満だと感じている。そのため、話を遮ったり、早々に不当クレームと判断して、交渉決裂を持ちかけるようなことは決してしないでもらいたい。
それでも社長を出せと言われたら
どんなに食い下がっても、「社長を出せ」を繰り返すお客さまもいないわけではない。こうなった場合、考えられるのはそのオペレーターに対して不信感を抱いているか、そもそも役職(肩書)のついた人間しか認めないような人である。そんな時は次のように言ってみるといい。
時間と人を変えることもクレーム対応では有効である。役職にこだわるような人には「上司から」という言葉を付け加えることで、一旦は納得させることができる。
まとめ
「社長を出せ!」系のクレームは、何かとんでもないことが起こったとオペレーターに感じさせ、オペレーターを委縮、困惑させてしまう。しかし、実際に不満を聞いてみるとほとんどの場合が大した内容(不満)ではない。
この記事を読んでいる人がオペレーターの方であれば「社長」などのキーワードに惑わされることなく、まずはその先にある”相手の不満”に集中するようにしてほしい。
この記事を読んでいる人がSVなどの上司であれば、オペレーターはそういう恐怖と戦いながら日々電話応対にあたっていることを十分に汲んでやってほしい。間違っても「社長なんて出せないと言え!」と突き放すことがないようにしてもらいたい。