日々クレーム対応に追われていると、本当はすぐに収束できるような対応でも、二次クレームを生み出してしまうことがある。
この記事では、そもそもクレームとは何か、なぜ発生するのかを知り、次にクレームを種類で分別し、適切な対応がとれるように解説する。
クレーム対応の切り分けについて
クレームは、お客さまの不満を起因とした正当なクレームと、そうでない不当なクレームに大きく分けられる。
クレームをする心理
人がクレームをする心理として、期待(お客さまが考える対象のあるべき姿)と現実にギャップが生じると、不満という感情が生まれ、そのギャップが大きければ大きいほどクレームとして意思を表明する確立が高くなる。
当たり前のことではあるが、何らかの不満がなければクレームを言おう、とは思わないし、反対にクレームを言うためには不満が存在しているということができる。
このように期待と現実をギャップとした不満をきっかけにするクレームを正当なクレームという。
一方、不満がないのにするクレームは、不当なクレームといい、何かしらの相手の落ち度や、弱みにつけこみ、不当な利益を得ることを目的とする。反社会的勢力がする”ゆすり”行為などを想像してもらえればわかりやすいと思う。
ちなみに不当な利益というのは、金銭だけでなく、自尊心を満たすためだけの行為も含まれる。
つまり、クレームの意思を表明する者に、不満という原因があるかないか、クレームする、という権利があると言えるかどうかによって分けられるということである。
ところで、正当なクレームはさらに相当因果関係のあるクレームと相当因果関係のないクレームに分けることができる。
相当因果関係のあるクレームとは、簡単に言ってしまえば、原因たる不満と、それに対応する結果たる要求に、合理的な繋がりが認められるものをいう。
クレームの分別
┗正当なクレーム
┗相当因果関係のあるクレーム
┗相当因果関係のないクレーム
┗不当なクレーム
相当因果関係のないクレームは、その不満からその要求をするには無理がある、飛躍している、といえるクレームのことである。例えば、本来口頭での謝罪で済むものを文書として寄こせ、とか値引きをしろ、といったクレームの類だ。
そして、この手のクレームは、不当なクレームと混同されがちである。さきほど述べたように、不当なクレームには不満がない。不満がなく、利益を得るためだけにするクレームというのは悪質極まりないが、実際数としてはかなり少ないものである。
僕はコールセンターを10年以上経験し、社会的に問題とされた企業に在籍していたこともある。そのため、一般のコールセンター従事者に比べればクレーム対応の経験は多い方だ。しかし、それでもこれまでに不当なクレームを対応した、という経験は数えるほどしかない。
したがって、「これは不当なクレームだ!」と判断しても、実は正当なクレーム(相当因果関係のないクレームのこと。以下、単に相当因果関係のないクレームという)であることがほとんどなのである。
けれど、正当な権利を原因としてクレームするにしても、過度な要求をされるのであれば、結局のところ、不当なクレームとして扱うべきでは? と思うもしれない。この点についてもう少し詳しく述べよう。
不当なクレームと相当因果関係のないクレームの整理
不当なクレームについては、そもそも不満がないので、これを正当なクレームとして処理することはできない。また、あらかじめ言っておくと、不当なクレームをする人はお客さまとして扱ってはいけない。業務を妨害する人、場合によっては犯罪者として法的対応が必要になる。この点からも、正当なクレームとは対応方法が異なることがわかると思う。
では、相当因果関係のないクレームはどうだろうか。そもそも、相当因果関係という言葉は、法律の用語である。あれ(原因)なければこれ(結果)なし、の論理として、被告の帰責性を認めるかどうかを判断するための考え方である。
例えば、たまたま見落としてしまったが故に不良品を提供してしまい、お客さまが手のひらに切り傷を負ったとする。提供したものが「不良品」であった為に「切り傷を負った」わけだから、お客さまには「切り傷を負わなければ負担する必要のなかった」治療費などの損害を請求する権利が生まれることになる。
まさにあれなければこれなし、相当因果関係がある、といえる話である。
しかし、お客さまがこの「切り傷」を理由に会社を欠勤し、大事な取引先との契約を失注したため、「取引先との失注相当分の損害を賠償しろ!」と言われてもそれに応じる必要がある、とまでは言えない。
これは不良品を提供したことにより切り傷程度の怪我をされることまでは考えられる範囲であっても、その怪我を理由に会社を欠勤し、契約を失注することまでは考えられる範囲を超えるためである。つまり相当因果関係がない、ということになる。
相当因果関係というのは社会通念上考えられる範囲での「あれ」に対する「これ」であり民法第416条にも『損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。』と明記されている。
ここまで説明すると、ますます相当因果関係のないクレームは不当なクレームに近いような気がしてしまうかもしれない。しかし、決してそうではない。先ほどのケースで、もし自分が不良品の提供を受けた側、つまり不良品が原因で怪我をしてしまった立場だとしたら、と想像してみてもらいたい。
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ある日の朝、あなたは先日購入した商品に手を伸ばしました。この商品は前々から欲しかったもので、やっと手に入れることができた、そういう商品です。ワクワクしながら、使おうとしたところ、鋭い痛みが……。
深さこそありませんが、手のひらの広範にわたって、切り傷ができてしまいました。絆創膏を重ねたり、薬をなんべんも塗り直したりしましたが、なかなか血が止まりません。そこで、会社を遅刻して病院へ行くことにしました。
病院へ着く頃には、ほとんど血が止まっていましたが、念のため包帯をしてもらいました。なんとか会社に行くことはできるだろう。今なら1時間程度の遅刻で済む。そう思った時、あることを思い出しました。今日は午後から取引先へ出向き、重要なプレゼンをしなければならなかったのです。しかも、ただ資料を紹介するようなものでなく、自社で開発した製品を実際に取引先で操作するデモンストレーションも含まれていました。
確かに今から出社すれば間に合います。しかし、そのデモンストレーションは、製品を設置するために複雑に手を動かす必要があり、この状態では激しい痛みを伴います。仕方がない、プレゼンは別の人間に任せよう。会社へ連絡し、事のあらましを上司に話しました。上司は理解もあり、今日は大事をとって休むよう言いました。また、プレゼンについても後輩へお願いするから心配するな、と言ってくれました。
次の日、会社へ出社するとあきらかにいつもと空気が違うことに気づきました。聞けば、昨日のデモンストレーションで、プレゼンを任された後輩がいつまで経っても製品の設置ができず、プレゼンを中止させてしまったのです。あげく先方からは「こんな商品では使い物にならない」とまで言われてしまい、失注してしまいました。
この商品は設置こそ複雑な技術を要しますが、製品そのものの操作については決して難しいものではありません。むしろ、競合製品と比べれば、その扱いやすさは歴然です。しかし、急なことであったため、上司もこの後輩に細かい設置方法までは説明しきれていなかったようです。
誰もあなたを責めることはしませんし、後輩に至っては泣きながら謝ってきてくれるほどでした。それを優しくフォローしながらも、責任感の強いあなたは、自らの怪我のせいで、このような事態になってしまったことをひどく反省しました。
あなたはその後、取引先だけでなく、開発部門などの関係各所にも謝罪へ行き、クタクタになって自宅に帰ってきました。玄関を開けると、今回の元凶である例の商品が目に入りました。
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このような事情を知った後では、少なくとも知る前よりも、クレームをしたくなってしまうお客さまの心情が理解できるのではないだろうか。
相当因果関係のないクレームでも、お客さまの主観的立場に立てば、過度な要求をしてしまうのも無理はない、と思えるようになる。このことからも、不当なクレームと同じように取り扱うべきではないことがわかるだろう。
お客さまはそのクレームが相応しいものかわかっていない
もうひとつ。相当因果関係のないクレームを正当なクレームとして区別する理由がある。それは、お客さまが抱えた不満について、どのような要求が相応しいのか、当のお客さま自身が判断できていない点にある。
人は、著しい不満を生じると、それが怒りや悲しみといった感情に表れる。そうした感情が前面に出るとき、冷静に自分の不満に対する要求の合理性を見極めることなどできるはずがない。いわゆる感情的になっている状態なのだから、過度な要求はもちろん、罵詈雑言を浴びせるようなこともあるだろう。
しかし、これを「不当だ」、「理不尽だ」と早々に決めつけて対応すると、お客さまの不満は募り、事態はますます悪化するばかりである。
そのため、まずはクレームにはこのような種類があることを知り、またほとんどのクレームが正当なクレームである、という前提に立つようにする。そうすれば、相当因果関係のあるなしに関わらず、お客さまの要求そのものを見聞きして対応を決めるようなことをしなくなる。
つまり、要求をどうにかしよう、ではなく、不満をどうにかしよう、という考えをもって対応できるため、お客さま自身が気づかなかった相応しい要求へと導いてあげることができるようになる。
相当因果関係のないクレーム → 相当因果関係のあるクレーム ◯
┗不満を解消できれば要求を変えることができる!
不当なクレーム → 正当なクレーム ×
┗そもそも不満がないので、正当なクレームになることはない!
先ほど述べたように相当因果関係のないクレームは、お客さま自身が何をどうすれば不満が解消されるのか自らわかっていないことの方が多い。そのため、客観的にみると、とんでもない! と思われる要求に至ることもある。
しかし、要求は不満があって生じていることなのだから、これを解消させるために理解することを尽くせば、要求は相応しいものへと変わってくれる。しかし、不当なクレームは、不満がなく要求することが目的である。そのため、どのように努力しても、正当なクレームへ変えるということはできない。
以上が相当因果関係のないクレームと不当なクレームを整理、区別すべき理由だ。長くなったが、ご自身のこれまでの対応を振り返っていただき、もしこれらの考え、行動が十分でないと感じたら、まずはこの点を改めていただければと思う。
まとめ
今回は、クレームを種類で分け、定義を説明した。この整理、区別ができていないために、本来は傾聴だけで話が終わったようなものを、長引かせてしまったり、場合によってはお客さまの要求をさらにエスカレートさせてしまったりすることがある。
とても初歩的な内容だったかもしれないが、意外と現場でできていない人も多いと思い、記事にした。初心忘れるべからずとはよく言うが、最近不当なクレームが多いなぁ、と感じたらぜひこの話を思い出してほしい。