「研修でやったよね?」「見ればわかるでしょ」「わからなかったら聞いてね」など、新人に仕事を教えるときにこんな言葉を使って、思ったように覚えてもらえずに頭を悩ませていないでしょうか。

教える側は丁寧に説明したつもりでも、新人は何がわからないのかもわからないまま「はい」と返事をしていることがあります。そこで大切になるのが、教える前に「何を作る仕事なのか」と「新人がどこから知らないのか」を確かめ、教えた後は「わかった?」と聞かずに、本人の言葉とやってみせてもらうことで理解を確かめることです。

この記事では、新人に仕事を教えるコツを5つ、悪い言い方と良い言い方のセリフで比べながら紹介します。

教える側に見えている仕事の全体が、新人には見えていない

新人に仕事を教えるときにまず知っておきたいのは、教える側に見えている仕事の全体が、新人には見えていないということです。なぜなら、教える側は何年もその仕事をしてきたので、手順の一つひとつが何のためにあるのかを考えなくてもわかっているからです。一方で、新人には今の作業が仕事全体のどこに当たるのかが見えていないため、言われた手順を順番どおりに覚えるしかありません。

正直に書くと、私も20歳で管理者になったころ、研修だけで業務を覚えた自分の速さを基準にして、部下に「研修でやったよね」「マニュアルを読めないの?」と言っていました。部下が泣いたり辞めたりする理由がわからず、面と向かって「教え方が嫌い」と言われて、はじめて自分の教え方を変える必要があると気づいたのです。

目線ズレの4つの種類:視点(見ているもの)、視野(見えている広さ)、視座(見ている高さ)、視角(見ている角度)

株式会社あたまでは、このように相手と自分で見えているものが違う状態を「目線ズレ」と呼んでいます。新人教育で起きやすいのは、見えている広さ(視野)のズレです。つまり、教える側には仕事の始まりから終わりまでが見えていますが、新人には目の前の作業しか見えていません。

ちなみに、教え方が下手だと言われる人がついやってしまう言い方は「教え方が下手な人の特徴10個|仕事ができても伝わらない理由と言い換え例」で紹介しています。

新人に仕事を教えるコツ5つ

ここからは、自分に見えているものを新人にも見える形にして教えるためのコツを5つ紹介します。教える前(1・2)、教えるとき(3)、教えた後(4・5)の順に並べているので、ひとつずつ見ていきましょう。

1. 手順の前に、仕事の完成形と目的を見せる

仕事の完成形と目的を先に示す

手順を教える前に、その仕事で最終的に何ができあがるのか、今から教える作業が全体のどこに当たるのかを先に見せます。手順だけを聞いた新人は、一つひとつの操作が何のためにあるのかがわからず、「これで合っているのかな」と思いながら作業を続けることになるからです。

たとえば、Excelで在庫管理表を作る仕事を教える場面を想像してみてください。

悪い例:「まずこのセルにこの式を入れて、次に罫線を引いて、それから……」
良い例:「今日は在庫管理表を作ります。完成するとこうなって、入荷と出荷の数を入れると在庫の数が自動で出ます。今から教える式は、この在庫の数を計算するところです」

ただし、全体像の説明を長くしすぎると、新人は肝心の作業を覚える前に疲れてしまいます。見せるのは、完成形と、今の作業が全体のどこに当たるのかの2つで十分です。

2. 新人が「どこから知らないのか」を確かめてから教える

新人がどこから知らないのかを確かめる

説明を始める前に、新人が言葉、操作、判断のどこまでを知っているかを確かめ、知らないところから教えます。同じ「わからない」でも、言葉の意味がわからないのか、操作のやり方がわからないのか、どう判断すればよいのかがわからないのかで、教える内容はまったく変わるからです。

悪い例:「わからないところある?」(新人は何がわからないのかがわからないので、「大丈夫です」と答えます)
良い例:「『検収』という言葉は聞いたことある?」「この画面は開いたことある?」「金額が合わないときにどうするかは、まだ聞いていないよね?」

なお、知識がまだない新人に「どうしたらいいと思う?」と考えさせても、答えは出てきません。考えるための材料がないからです。材料がない段階では先に教え、経験を積んでから質問で考えてもらう、という順番にします。

3. 手本は「ベテラン」と「少し先の先輩」の2つを見せる

ベテランと少し先の先輩の手本を見せる

手本を見せるときは、熟練した人のやり方だけでなく、少し先に仕事を始めた先輩のやり方もあわせて見せます。一番上手な人の手本だけを見ると、新人は「自分には無理だ」と感じてしまうからです。一方で、少し先の先輩の手本を見ると、「まずはここまでできればいいんだ」と次の目標がわかります。

私がコールセンターで新人研修をしていたときは、ベテランの応対と、デビューして3か月の先輩の応対の両方を聞いてもらっていました。そのうえで、最初に目指すところを次のように伝えていました。

悪い例:「この人みたいに早く対応できるようになってね」
良い例:「まずは3か月後の先輩のように、ミスなく対応できることを目指しましょう。スピードはその後で上げていけば大丈夫です」

ちなみに、先輩の仕事を手本に使うときは本人の了解を取り、「できない人の例」ではなく「皆さんより先にデビューした先輩」として紹介します。

4. 「わかった?」で終わらせず、言い直しとやってみせてもらうことで確かめる

言い直しとやってみせてもらうことで理解を確かめる

教えた後は「わかった?」と聞くのではなく、手順を本人の言葉で言い直してもらい、実際にやってもらって、理解できたかを確かめます。「わかった?」と聞かれた新人は、ほとんどの場合「はい」と答えるからです。素直にうなずいている様子を見ても、次に一人で同じ作業ができるかどうかはわかりません。

悪い例:「ここまで大丈夫?」「はい、大丈夫です」
良い例:「じゃあ、今の手順を一度、自分の言葉で説明してもらってもいい?」「次の1件は横で見ているので、やってみてください」

同じ間違いが続くときも、説明の回数を増やすだけでは変わりません。言い直してもらったときに詰まったところが、まだ理解できていないところなので、そこだけをもう一度教えます。また、教えたことを試すまでの時間はできるだけ短くします。時間があくと、せっかく覚えたことを忘れてしまうからです。

新人を教える先輩や教育係の方に向けて、このような理解の確かめ方をロールプレイで練習する教育係(OJT担当者)研修を行っています。業務内容と新人の状況をうかがってから内容を組み立てますので、詳しくは教育係(OJT担当者)研修のご案内をご覧ください。

5. できたことは「存在・変化・結果」の3つで伝える

できたことを具体的な事実で伝える

新人に声をかけるときは、できなかったことを指摘する前に、できたことを具体的な事実で伝えます。結果が出たときだけ認めていると、覚えている途中の新人には何も伝えられないからです。そのままでは、新人は自分が成長しているのかがわからず、「やっぱり自分はできていない」と思い込んでしまいます。

そこで、伝える材料は次の3つから選びます。

  • 存在:「今日も来てくれてありがとう」
  • 変化:「前より確認の回数が増えましたね」
  • 結果:「この処理、一人で最後までできましたね」

悪い例:「まだここが違う。前にも言ったよね」
良い例:「この処理、一人で最後までできましたね。あと1か所、金額の入力だけ一緒に確認しましょう」

ただし、見ていない変化を作って褒めても、新人にはすぐに伝わります。実際に見た事実だけを伝えてください。

「覚えること」と「調べればよいこと」を分けて伝える

新人に教えるときは、「覚えること」「仕事中に資料を見ながらやればよいこと」「今はやらなくてよいこと」の3つを分けて伝えます。新人は情報の優先順位を判断できないため、目に入った情報をすべて覚えようとするからです。覚える量が多すぎると、仕事を始める前から「自分にはできない」と感じてしまいます。

たとえば、私が保険の業務を教える教材を作ったときは、保険会社が作った難しいマニュアルをそのまま覚えてもらうのではなく、最低限覚える内容だけを抜き出し、細かい条件はマニュアルのどこを見ればよいかを教えるようにしました。

なお、調べればわかることを何度も聞いてくる新人には、答えを毎回伝えるのではなく、一緒に資料を探します。「この内容はこのマニュアルに載っているので、一緒に探しましょう」「1分調べてわからなければ、声をかけてください」と伝えれば、新人は自分で調べる方法を覚えながら、困ったときには質問できます。ただし、間違えると危ない作業は、調べる練習よりも先に正しいやり方を伝えます。

教える順番そのものは「仕事の教え方4ステップ|お手本・説明・体験・フィードバックの順番」で、OJTとして計画的に教える進め方と会話例は「OJT研修の進め方|トレーナーが使う5つの手順と会話例」で解説しています。

まとめ

新人に仕事を教えるコツは、次の3つです。

  1. 教える前に、仕事の完成形と目的を見せ、新人がどこから知らないのかを確かめる
  2. 手本は、ベテランと少し先の先輩の2つを見せる
  3. 「わかった?」で終わらせず、言い直しとやってみせてもらうことで確かめ、できたことは事実で伝える

明日、新人に仕事を教えるときは、説明の最後に「今の手順を、自分の言葉で説明してもらってもいい?」と一言聞いてみてください。新人がどこでつまずいているのかが、その場でわかります。

新人の教え方を、職場でそろえたい方へ

株式会社あたまでは、新人や後輩を教える先輩・教育係の方に向けて、教育係(OJT担当者)研修を行っています。この記事でご紹介した、完成形と目的の見せ方、理解の確かめ方、できたことの伝え方を、ロールプレイで練習します。内容は、業務内容と新人の状況をうかがってから組み立てます。

社内で新人教育の見直しを検討している人事・研修担当の方には、研修テーマと料金をまとめた資料(PDF・5ページ)をご用意しています。研修資料をダウンロードする ご相談はお問い合わせフォームから受け付けています。