「何度言っても同じミスをする」「指示を待つばかりで自分から動かない」「注意したら黙り込んでしまった」など、部下の指導に頭を悩ませていないでしょうか。
部下指導がうまくいかないのは、上司が「この話のあと、部下にどう動いてほしいか」を決めないまま話しているからです。指導が上手い上司は、部下と話す前に、してほしい行動・今の行動・その差・部下がまだ理解していないことの4つを決め、部下の状態に合わせて、教える・練習させる・気づかせる・任せるを使い分けています。
この記事では、部下指導の方法として、話す前に決める4つのことと関わり方の使い分け、やってはいけない言い方の言い換え例を、職場の会話例と一緒にご紹介します。
部下指導がうまくいかないのは、上司に見えているものが部下には見えていないからです
三省堂国語辞典をひいてみると、「指導」は「人を教えみちびくこと」とあり、「みちびく」は「まよわずに目的のところへ行けるように、手引きする」とあります。つまり指導とは、部下が目的地まで迷わずに行けるように、上司が一緒に手を引いていくことです。
ところが、部下指導でつまずく上司の多くは、自分にとっての当たり前を、部下も分かっている前提で話しています。上司は長くその仕事をしてきたので、どこで間違えやすいか、何を先に確認すべきかが見えていますが、経験の浅い部下にはその景色が見えていません。
正直に言うと、私自身もそうでした。20歳で管理者になったころの私は、研修だけで仕事を覚えられたので、部下に「研修でやったよね」「マニュアルを読めないの?」と言っていました。部下が泣いたり辞めたりしても理由が分からず、ある日、部下から面と向かって「教え方が嫌い」と言われて、ようやく自分の教え方を変えなければいけないと気づいたのです。
株式会社あたまでは、このような見えているもののずれを「目線ズレ」と呼んでいます。目線ズレには、視点(見ているもの)・視野(見えている広さ)・視座(見ている高さ)・視角(見ている角度)の4つがあり、部下指導で特に起きやすいのは、上司には見えている仕事の全体や前後のつながりが部下には見えていない、視野のずれです。

しかも、部下は上司の前で「分かりません」と言いにくいものです。「知らないと言ったら恥ずかしい」「怒られるかもしれない」と思えば、分かったふりをして「わかりました」と答えます。そのため、上司は伝えたつもりでも、部下には伝わっていないことが起きるのです。指示を出す場面でのずれは「仕事の認識のズレが起きる原因と防ぎ方」でも詳しくご紹介しています。
部下指導の方法|話す前に決める4つのこと
そこで、部下を指導する前に、次の4つを紙に書き出します。ひとつずつ見ていきましょう。

1. 部下にしてほしい行動を決める
最初に、指導が終わったあと、部下がどんな行動を取れるようになっていてほしいかを書きます。「報告を意識してほしい」「主体性を持ってほしい」では、部下は何をすればよいか分かりませんし、上司も指導が届いたかを確かめられません。
たとえば「報告を早くしてほしい」なら、「トラブルが起きたら、その日のうちに、起きたこと・今の状況・自分の対応案を上司に伝える」のように、見て分かる行動で書きます。
2. 部下の今の行動を、事実で書く
次に、部下が今どんな行動を取っているかを書きます。ここで「やる気がない」「報告が遅い」と性格や印象で書くと、何を変えればよいかが見えません。「先週の納期遅れは、発生から3日後の定例会議で初めて聞いた」のように、いつ、何が起きたかを書きます。
3. してほしい行動と今の行動の差を見る
1と2を並べると、差がはっきりします。この例なら、差は「トラブルを、その日のうちに上司に伝えていない」ことです。上司が指導で扱うのは、この差だけです。差と関係のない過去の失敗や性格の話を持ち出すと、部下は何を直せばよいのか分からなくなります。
4. 部下がまだ理解していないことを考える
最後に、差が生まれている理由として、部下がまだ理解していないことを考えます。部下は怠けているのではなく、「自分で解決してから報告したほうが、上司に迷惑をかけない」と考えているのかもしれません。この場合、部下が理解していないのは「早く聞ければ、上司が先方への連絡や人の手配を先に打てる」ことです。
なお、ここで考えたことは、あくまで上司の仮説です。本人に確かめると、「課長が忙しそうで声をかけられなかった」のように、上司の側に原因が見つかることもあります。
理由から伝え、最後に行動を一緒に決める
4つが決まったら、なぜ必要か、どう進めるか、具体的に何をするか、の順で伝えます。このとき、理由は上司の都合ではなく、部下にとってどんな得があるかで伝えます。
悪い例:「トラブルはすぐ報告してって、前にも言ったよね。次から気をつけて」
良い例:「トラブルをその日のうちに聞ければ、先方への連絡や人の手配を私のほうで先に動ける。そうすれば、あなたが一人で抱え込まずに済むんだ。だから、解決していなくてもいいので、起きたこと・今の状況・あなたの案の3つを、その日の夕方までに5分だけ話してほしい。私が席にいないときはチャットでいいよ。どうかな?」
最後に「どうかな?」と聞き、部下が「夕方は外出していることが多いです」と答えたら、時間や方法を一緒に決め直します。上司が一方的に決めず、本人が実行できる形にすることで、指導が続くのです。
株式会社あたまの管理職研修では、受講者がご自身の部下の場面を題材にこの4つを書き出し、部下に伝える言葉まで作るワークを行っています。研修の内容は「講演・研修のご依頼」のページでご覧いただけます。
部下の状態に合わせて「教える・練習させる・気づかせる・任せる」を使い分けます
4つが決まっても、どの部下にも同じ関わり方をしていると、指導はうまくいきません。何も知らない部下に質問を続けても答えは出てきませんし、すでにできる部下に手順を一から教え続けると、自分で考える機会を奪ってしまいます。部下の知識と経験に合わせて、関わり方を変えます。
知らない部下には、教える(ティーチング)
仕事の知識がない部下には、まず教えるしかありません。部下はどこを見ればよいかを知らないので、「見て覚えて」は指導になりません。何のための仕事か、どうなれば完成か、どんな手順で進めるかを、手本を見せながら説明します。教え方の手順は「教えるのが上手い人の特徴7つ」で会話例と一緒にご紹介しています。
知っているけれどできない部下には、練習させる(トレーニング)
知識があっても、すぐにできるとは限りません。自動車学校で教本を読んだだけでは運転できないのと同じで、実際にやってもらい、上司が見て、足りないところを返すことを繰り返します。たとえば電話対応なら、上司がお客様役になって練習し、「名乗りは聞き取りやすかった。用件の復唱が抜けていたので、次は復唱を入れてみて」のように、行動を具体的に返します。
ある程度できる部下には、質問で気づかせる(コーチング)
基礎ができている部下には、上司が答えを先に言わず、質問で本人に考えてもらいます。人は命令された変化には反発しますが、自分の口で言った案には責任を持ちやすいからです。
上司「今回の入力ミス、どこで起きたと思う?」
部下「急ぎの案件を先に入れたとき、元の作業に戻る場所を間違えたんだと思います」
上司「なるほど。次はどうしたら防げそう?」
部下「途中で手を止めるときは、どこまで入力したかを付箋に書いておきます」
上司「いいね。試しに1週間やってみようか」
最後を「やりなさい」ではなく「試しにやってみようか」にすると、部下は小さく始められます。ただし、安全や法令に関わることは、試しで済ませずに上司がはっきり指示します。
任せるときは、範囲・期限・相談の条件を決める
仕事を任せることと、丸投げは違います。丸投げは、責任の範囲を決めずに仕事だけを渡すことです。任せるときは、どこまで本人が決めてよいか、いつまでに何を出すか、どんなときはすぐに相談するかを先に伝えます。
たとえば「見積もりの値引きは5%まであなたの判断でいい。それを超えるときと、納期が変わるときだけ先に相談して。金曜の15時に一度、途中の案を見せてね」のように伝えます。
任せた仕事が最初は70点で返ってきても、上司が自分でやり直さず、足りない30点を具体的に伝えます。最初の手直しには手間がかかりますが、次は75点、80点と上がっていき、上司が抱える仕事も減っていきます。新人の育成計画の立て方は「OJT研修の進め方」もご覧ください。
部下指導でやってはいけない5つのことと言い換え例
ここからは、部下指導でついやってしまう言い方と、その言い換え例をご紹介します。どれも上司に悪気はなくても、部下が上司に話さなくなる原因になります。
1. 上から目線で話す
上司のほうが仕事ができるのは、経験が長いので当たり前です。その差を部下を下に見る理由にすると、部下は質問しなくなります。
悪い例:「こんなことも分からないの? 私たちのころは誰にも教わらなかったよ」
良い例:「ここまでで、分かっているところと分からないところを教えてもらえる?」
2. 人格を責める
注意するときは、性格ではなく、問題があった行動と今回の仕事に絞ります。「だらしない」「詰めが甘い」と人格を繰り返し言われると、部下はその人物像を自分のものとして受け入れ、同じ行動を続けやすくなるからです。
悪い例:「あなたは本当に詰めが甘い」
良い例:「今回の資料は、合計の数字の確認が抜けていた。提出前に、合計欄だけは電卓で確かめてほしい」
3. 「分かった?」で確認を終える
「分かった?」と聞かれれば、部下はほぼ必ず「はい」と答えます。理解を確かめるときは、部下自身の言葉で話してもらいます。
悪い例:「分かった? じゃあ、よろしく」
良い例:「念のため、どう進めるか一度言ってみてもらえる?」
4. マニュアルのページだけを示す
部下が質問してきたときに、答えの場所だけ示して終わると、部下は「聞かなければよかった」と感じます。まず、分からないことを聞けたことを受け止めます。
悪い例:「それ、マニュアルの12ページに書いてあるから」
良い例:「そこが分からなかったんだね。マニュアルのどこに書いてあるか、一緒に見てみよう」
5. 正論で押し切り、自分の非を認めない
上司の言うことが正しくても、部下が納得していなければ協力は得られません。私も以前、新しい取り組みをメールで知らせていたのに部下から「聞いていない」と言われ、メールを送った事実を示して怒ったことがあります。その結果、部下の反対はかえって強くなりました。
そこで、上長にも入ってもらって話し合い、部下の言い分を最後まで聞き、伝え方が足りなかった自分の非を謝ったうえで、取り組みの目的と効果を説明し直しました。すると部下は協力してくれるようになり、この取り組みは、ほかの取り組みとあわせて、研修期間中の離職者0人という結果につながっています。
自分の非を認めない上司は、部下から信頼されません。PRESIDENT WOMANが2015年12月に、男性上司の下で働く30代・40代の正社員の男女各500人に行ったアンケートでも、「器が小さい」と思う上司の行動の1位は「自分の非を認めない」でした。イギリスの詩人アレキサンダー・ポープは、「間違いを認めることを恥じる必要はない。それは言い換えれば昨日より賢くなったということなのだから」という言葉を残しています。
悪い例:「メールで送ったよね。読んでいないほうが悪い」
良い例:「メールだけで伝わったと思っていたのは、私の伝え方が足りなかった。改めて、何のための取り組みかを説明させてほしい」
部下を褒めるときは「すごい」より「助かった」と伝えます
部下を褒めるときも、伝え方で受け取られ方が変わります。「すごい」「よくやった」は、上司が部下を採点する言葉に聞こえることがあります。一方で、「助かった」「ありがとう」は、部下の行動で上司やチームに何が起きたかを伝える言葉です。
悪い例:「先月は営業成績トップだったな。よく頑張った」
良い例:「先月の数字のおかげで、チームの目標に届いた。本当に助かったよ、ありがとう」
アドラー心理学でも、褒めることは上の人が下の人を評価する行為だと考え、褒めるのではなく「ありがとう」と伝えることを勧めています。褒められるために動く部下は、褒める人がいないと動けなくなりますが、「ありがとう」と言われた部下は、自分の行動が役に立ったと感じられるからです。
さらに、続けてほしい行動があるなら、それを先に伝えます。「今日の会議の進め方、これからも続けてほしい。全員が意見を言えていて、すごく良かったから」と言えば、部下は何を続ければよいかが分かります。なお、感謝を伝えることと人事評価は別のものなので、評価の基準は別の場ではっきり伝えます。指示・注意・褒め方の言い方は「部下への指示の出し方と注意の仕方」でも、場面ごとにご紹介しています。
まとめ
部下指導のポイントは、次の3つです。
- 話す前に、してほしい行動・今の行動・その差・部下がまだ理解していないことの4つを書き出す
- 部下の状態に合わせて、教える・練習させる・気づかせる・任せるを使い分ける
- 人格ではなく行動を扱い、理解は部下自身の言葉で確かめる
まずは明日、部下と話す前に、「この話のあと、部下にどんな行動をしてほしいか」を一文で書いてみてください。その一文が決まれば、部下に伝える言葉も決まります。
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株式会社あたまでは、管理職研修や教育係(OJT担当者)研修で、部下への伝え方と教え方をお伝えしています。研修では、事前に業務内容と職場の課題をうかがい、受講者の実際の場面に合わせて内容を組み立てます。上司と部下の「目線ズレ」を見つけてそろえる方法は、代表講演「なぜ、話しているのに伝わらないのか」でもお話ししています。
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