大勢の前で話をする、スピーチをする人にとって気になるのは、「聞き手のリアクション」ではないでしょうか?
リアクションが薄いと、言いたいことが伝わっているのか、上手く話せているのかと不安になりますよね。いまいち上手く話せている実感がないなら、スピーチのプロに学びましょう!
TOYOTA(以下、トヨタ)のCEO、豊田章男氏(以下、豊田氏)がアメリカで行ったスピーチが「素晴らしい!」と話題になっています。
この記事では、豊田氏のスピーチに学ぶ「心を動かす7つの伝え方」を解説します。スピーチの前に準備しておきたいことにも触れますので、最後までご覧ください。
トヨタの社長「豊田章男」話題のスピーチ
2019年にトヨタ自動車の代表取締役社長・豊田氏がアメリカにあるバブソン大学の卒業式にゲストとして登壇し、スピーチを行いました。バブソン大学といえば、豊田氏の母校。1982年に、経営学修士(MBA)を取得しています。
そんな母校でのスピーチが「大変素晴らしい」と、高評価を得ています。豊田氏のスピーチはアメリカ人の心をグッとつかみ、最後には拍手喝采!経営者として真似したい要素がいっぱいのスピーチを紐解いていきます。
一体、どんなスピーチだったのか?
動画共有サービス「YouTube(ユーチューブ)」でアップロードされた、トヨタのCEOの話題のスピーチ。2019年にアップロードされ、再生回数は76万回・高評価は1万を超えています(2020年11月現在)。
これだけの再生回数と高評価を得ることができたのは、スピーチの構成が素晴らしいからにほかなりません。また、卒業生だけではなく大人たちの心にも響く内容であったからではないでしょうか。
聞き手の心を動かす伝え方を解説する前に、どんなスピーチだったのか見ていきましょう。
バブソン大学卒業式のスピーチ
豊田氏の母校である、バブソン大学。豊田氏にとって、思い入れもあり卒業生にとっては人生の先輩といえるでしょう。卒業式のスピーチといえば、社会の厳しさや常識を話すと思いがち。ついつい説教のような話をしてしまうことも。
しかし、豊田氏のスピーチは卒業生に希望を持たせ明るい未来を想像できるような話をします。聞いていて、「面白い・楽しい・友達に話したくなる」スピーチをしています。卒業生の心をつかみ、しっかり話を聞かせる見事なスピーチです。
卒業生もその家族も拍手喝采!
スピーチの最後には、拍手喝采で会場が湧きました。登壇者として、いちばん嬉しい瞬間ですよね。豊田氏のスピーチは終始ユーモアにあふれ、合間には笑いが起こりました。そして最後には、スタンディングオベーションです!
ただユーモアがあるだけでは、ここまで評価されませんよね。綿密に構成されたスピーチと、程よく散りばめられたユーモアが聞き手の心をつかんで離しませんでした。
学び実践できる構成で経営者なら真似したい内容
世界的大企業の社長だから、自分とは違うからと諦めていませんか?たしかに、豊田氏はさまざまな場所や大勢の前でスピーチをしているため、経験が違います。しかし、スピーチの内容をよく見てみると、わたしたちにも学び実践できる構成になっています。
人前で話をする機会の多い経営者なら、ぜひ真似したいですね。経験者から学ぶことは、とても多いし上手くスピーチをする近道ですよ。
トヨタ式!心を動かす7つの伝え方
豊田氏のスピーチを観察すると、シンプルな構成で成り立っていることがよくわかります。ひとつひとつを紐解くと、難しいことはなくちょっとしたコツをつかめば誰でもカンタンに真似することができますよ。
何事も上達するためには、その道のプロの真似から始まります。スピーチを上達させたいなら、「7つの伝え方」を意識してみてくださいね。それでは、さっそく見ていきましょう。
①最初の30秒で聞き手の心をつかむ
スピーチの印象は7秒、面白さは30秒で判断されるといわれています。何気ない会話からプレゼン・営業など、前置きが長いとどんなによい話であっても聞く気持ちは半減してしまいます。
豊田氏のスピーチでは、最初の挨拶が終わった後「大切な事だけをいいます」と切り出していますね。ここまで挨拶を除いて3秒です。
聞く者は、「おっ!何を言うんだ?」と興味を惹かれます。そして、「卒業後、仕事があるか不安を感じている皆さんもいるでしょう、みなさんの心配事を解決しましょう」と、卒業生にとって一番気になる話題に触れました。
そして一言、「みなさん全員にトヨタでの仕事をプレゼントします」。予想外の発言に会場は喜びのどよめきが!この発言までで30秒。豊田氏は、面白いかどうかを判断される30秒以内に聞き手の心をつかみました。
スピーチをする際は、初めの7秒で聞く者の関心を寄せ、30秒でグッと心をつかむことを意識してみてください。
②聞き手目線で興味をそそるキーワード
スピーチのテーマや聞き手がどのような層なのかによって、内容は変わりますよね。
聞き手が若い世代なのか年配層なのか、祝いの席なのかビジネスの世界なのかによって、スピーチの「切り口」に変化をつけなければなりません。若年層に老後の保障の話をしてもピンときませんし、祝いの席でビジネスの極意を語っても場違いな感じがしてしまいます。
豊田氏のスピーチでは、主役である卒業生がもっとも興味を持っている「パーティ・ドラマ・就職」というキーワードを散りばめています。「大事な話をしましょう」と興味を引き、「今夜のパーティーでどれだけはじけるか」と爆笑を誘っていますね。
さらに「私も参加できますか?」とジョークで繋ぎ、「明日はゲーム・オブ・スローンズ(人気ドラマ)の最終回だから夜更かしはできません。」と聞き手の興味のあるものを次々と繰り出します。
聞き手の心をつかむためのキーワードをよく研究していることが伺えます。
③親近感の湧く自分だけのストーリーを持っている
世界的に有名な著名人と自分に共通点があると、急に親近感が湧きませんか?豊田氏は、子どものころなりたかった職業を「タクシードライバー」だといいました。車が好きな少年がドライバーに憧れたという、豊田氏を身近に感じられるエピソードですよね。
その後は、大学時代はドーナツが好きになり、トヨタでCEOになった後はリコールに悩み50代でマスタードライバーの訓練に挑戦したという話をします。いまや大企業の社長ですが、誰もが一度は経験したであろう幼いころの夢・好きな食べ物・そして仕事での悩みをスピーチに盛り込みました。
その豊田氏だけのストーリーは、困難に直面しても前向きに挑戦し続けるという身近で親近感の湧くイメージを聞き手の心に残したことでしょう。
営業・プレゼンよりも、身近な経験談のほうがはるかに心に残ります。難しい話も大切ですが、共感を呼ぶ「自分だけのストーリー」で聞き手の心をギュッとつかみましょう。
④会場をコントロールする間の取り方
あなたは、スピーチをする際に用意した原稿を読むだけになっていませんか?聞き手の反応を確認しながら、スピーチできていますか?
スピーチの上手な人は、間の取りかたが上手です。会場に笑いや拍手が生まれれば余韻を楽しむかのように一呼吸置き、会場全体をコントロールしています。豊田氏だけではなく、アメリカの大統領や著名人のスピーチを見てみてください。上手に間を取りながら、聞き手を自分の世界に引き込んでいることがよくわかります。
また、間を取ることによって「次は何を話すんだろう?」と、聞き手は期待します。用意した原稿を読むだけではなく、間を取りながら焦らずにスピーチをしてみましょう。
⑤ユーモアを交えた「コントラスト」で聞き手の注意を引く
豊田氏のスピーチで印象的なのは、「コントラスト」を多用しているところです。コントラストとは、つまり「ギャップ」のこと。豊田氏はギャップをスピーチの中で巧みに操り、聞き手の興味をグッと引き寄せています。
たとえば、スピーチ冒頭の「大事な話をしましょう」と聞き手の興味を引き、「今夜のパーティーでどれだけはじけるか」とジョークを言うのも、コントラストですね。いい意味で、聞き手の期待を裏切るのです。
「私がバブソン生だった頃、自分で見出した喜びは」の後に続く「ドーナツです」も、コントラストです。世界のトヨタのCEOが、一体どんな素晴らしいことを言うのだろう!?と期待させておいて、非常に身近な、それも親近感の湧くことを言い笑いを誘います。
聞き手としては「してやられた!」と、驚いたことでしょう。コントラストは、ユーモアを感じさせることだけではありません。自分のストーリやドーナツの話で希望を持たせた後に、「その仕事を楽しめているか。ある日自分が縛られていることに気がつくでしょう。」と不安にさせる話をします。これも、コントラストですね。
スピーチでは内容にアップダウンをつけると、聞き手の注意を引き付ける「コントラスト」が効果的です。
⑥未来を想像・期待できる・夢が膨らむ話をする
学校の卒業は誰しもが経験し、希望と同じくらい不安も大きかったことを思い出してください。そんなときに、不安をあおるような話は聞きたくないですよね。豊田氏のスピーチでは、卒業生が未来を想像し期待し、夢を膨らませられるような構成になっています。
スピーチの冒頭で「皆さんの心配事を解決しましょう」と就職への不安を解消し笑いを誘い、どんな困難にも立ち向かう自分だけのストーリーで聞き手の未来を想像させています。
その後には不安にさせるような内容でコントラストをつけ、最後には「皆さんの時代が美しいハーモニーと、大いなる成功と、たくさんのドーナツで満たされますように!」というシンプルなメッセージで締めくくりました。
バブソン大学の卒業生にとってもちろんですが、動画を見た私たち大人にとっても心に響くスピーチだったのではないでしょうか。
⑦シンプルで明確なワンビッグメッセージ
豊田氏のスピーチでは、「自分だけのドーナツを見つけよう!」というシンプルで明確なメッセージが込められています。豊田氏がスピーチでいいたいことは「自分だけのドーナツを見つける=自分の喜びを見出すもの」であり、「ドーナツ」がキーワードとして度々登場します。
「在学中に夢中になったドーナツ」のエピソードを紹介し、「皆さんは喜びをもたらす仕事に没頭できているだろうか」とドーナツを例えに疑問を投げかけ、「皆さんの時代がたくさんのドーナツで満たされますように!」と締めくくられます。
一貫して「ドーナツ」をキーワードとした内容で構成され、「自分だけのドーナツを見つけよう!」というメッセージに繋がります。メッセージがシンプルかつ明確だと、聞き手の心に残り続けます。
豊田社長のスピーチが心に響くそのほかの理由
前項目では、7つの伝え方について解説しました。綿密に計算された構成と聞き手の興味をそそる話し方をすれば、今よりもよいスピーチができるようになるでしょう。しかし、それだけでは聞き手の心をつかむことはできません。
ここでは、7つの伝え方以外に感じた豊田氏のスピーチの特徴を解説します。
聞き手の集中力を削ぐ「フィラー」を使わない!
豊田社長のスピーチには「えー」や「あー」など、話の間につい発してしまう言葉を使っていません。「えー・あー」はフィラーと呼ばれ、スピーチにおいて悪影響を与えます。聞き手の集中力を削ぐだけではなく、聞き手に「自信がなさそう」「話の全体像が見えにくくなる」といったネガティブな印象を与えてしまいます。
せっかくよい話をしても、聞き手の集中力を途切れさせ聞いてもらえなえれば、もったいないですよね。フィラーを使わないようにするためには、ひとつの文章を短くすることが効果的です。
一人一人に語り掛けるように丁寧に話す
いままで、退屈に感じたスピーチを思い出してください。
一文が長く、ダラダラと話すものではなかったでしょうか?誰に何を伝えたいのかが分からないスピーチは、心に響かないだけではなく退屈に感じてしまいます。反対に、聞く者の心に響くスピーチは文章にリズムがあり心地のよい「キレ」があります。
一人一人に語り掛けるような話し方を「ワンセンテンス・ワンパーソン」と呼んでいます。これは、一文の句読点までを一人の目を見ながら話す方法です。句読点まで話したら別の人に、話したらまた別の人にと、目線を変えながらスピーチをしてみましょう。
目線を動かす際は、ジグザグに移すと効果的です。これを「ジグザグ法」といいます。一人一人に語り掛けるように丁寧に話すと、聞く者は自分に話しかけられている錯覚に陥るという効果があります。
アドリブを交え会場に一体感を生み出す
アドリブは、スピーチに慣れている方にとっても高度なテクニックです。まず準備することができないですし、周りを見渡す心の余裕も必要です。しかし、スピーチすることに慣れ場数を踏めば、自然とアドリブを入れることもできるようになりますよ。
豊田氏のスピーチでは、冒頭に感謝の言葉を述べています。その際に「ご両親…そして赤ちゃんもありがとうございます」と言っていますね。普通なら、「赤ちゃん」という単語は出てきません。これは、スピーチをする前に会場で赤ちゃんが泣いていたことに対してアドリブで入れたそうです。
動画を見ても、会場にもクスクスと笑いが起きていますね。その場の状況に合わせてアドリブを入れることができれば、会場に一体感を生み出すことができますよ。
テクニックだけじゃない!スピーチする前の準備も大切
テクニックを習得すれば、今よりももっと上手にスピーチができるようになるでしょう。話し方が上手になるだけではなく、心にも余裕ができますよね。
しかし、テクニックを学ぶだけでは足りないものがあります。それは、「経験」。スピーチではテクニックだけではなく、その前の準備もとても大切です。練習を繰り返し、場数を踏んで経験を積んでいきましょう。それでは、詳しく解説します。
録画をして繰り返し練習をする
あなたは、自分の話している姿を見たことがありますか?スピーチの上手な人は、自分の話す姿を動画に録画をして繰り返し練習しているといわれています。動画で客観的に自分を見ることにより、フィラーを繰り返していないか・無駄な動作や言い回しをしていないか・自分が魅力的に映っているかを確認することができますよ。
人からどう見られているかは、登壇者にとって大切です。聞く者の心をつかむために、「自分の話す姿を客観的に見て修正を繰り返す」ことをおすすめします。
場数を踏んでスピーチすることに慣れる
何度も繰り返し練習しても、当日に緊張感から本領発揮ができなければ意味がありませんよね。スピーチは一発勝負。あなたにとって「次」があっても、聞く者にとってはその1回があなたの評価になってしまいます。
程よい緊張感はプラスになりますが、緊張しすぎると普段の自分が出せませんよね。スピーチは、とにかく場数を踏んで慣れましょう。大勢の人に見られることや、会場の雰囲気に慣れると人の心をつかむスピーチができるようになりますよ。
話し方教室で繰り返し練習するのがおすすめ
自分の話す姿を録画して繰り返し練習するのは、大切だと前項目で解説しました。しかし、いくら客観的な目で見てみても「イマイチ自信が持てない」「プロの意見を聞いてみたい」と思いませんか? そんなときは、話し方教室を利用するのもひとつです。
話し方教室なら上手にスピーチをする方法に長けているため、客観的な目でプロのアドバイスをもらうことができますよ。また、話し方教室で繰り返し練習することにより、場数を踏めるというのも嬉しメリットですね。
【まとめ】スピーチは「聞き手との会話」という意識を忘れないようにしよう
豊田氏に学ぶ、心を動かす7つの伝え方について解説しました。豊田氏のスピーチは素晴らしものですが、ひとつひとつを紐解いていくと「真似できそう!」と思いませんか?大勢の前で話す機会の多い経営者にこそ、ぜひトヨタ式のスピーチから学び・実践してほしいです。
スピーチは一方的に話すのではなく、聞き手との会話という意識を忘れないようにしましょう。「聞き手との対話」を忘れなければ、今よりももっとよいスピーチができるようになることでしょう。
何から始めたらいいのか分からない・客観的に指導してほしいという方は、話し方教室で練習するのがおすすめです。話し方のテクニックだけではなく、スピーチの構成などトータルで自分自身をブラッシュアップしてきましょう!