部下の動きが遅いので自分でやってしまったり、つい仕切ってしまったり、いつの間にかひとりでものすごい量の仕事を抱え込んでいませんか?
一生懸命頑張っているのに、部下が育たない、指示を出さないと動いてくれないのは本当につらいことですよね。
実はそれ、指導のやり方を変えれば全部うまくいくかもしれません。指導というと先生が教えるように全員同じように教育することを想像しがちです。
しかしどんな人でも同じように成長するわけではありません。一律的ではなく、部下のひとりひとりに合ったやり方が必要なのです。
そこでこの記事では、あなたが部下の指導でやるべきことを紹介いたします。
そもそも指導とは?
指導とはそもそも何なのでしょうか?
三省堂国語辞典をひいてみると「指導とは人を教えみちびくこと」とあります。そして、みちびくとは「まよわずに目的のところへ行けるように、手引きする」とあります。
つまり、指導とは目的地に向かって「一緒に」あなたが手を引いてあげる形でゴールしないといけないことなのです。
「これ見てやっておいて」
「度胸つけるために社外でスピーチをしてよ」
では、指導とは言えません。そのような指示では、迷ったり途中であきらめたりする部下が続出してしまいます。
一緒に目的地まで向かってもらうためには、お互いを尊重しあう信頼関係がないと成り立ちません。
仕事ができる人にとっては 「自分がすぐに覚えたから相手もできるはず」 「みんなも自分と同じくらいのパワーで仕事にむきあっているはず」 と思っちゃいますよね?
でも、そうではないことをしっかり念頭にいれてほしいのです。
時間をかけないと仕事を習得できない人もいますし、手順をおって丁寧に指導されないと仕事を覚えられない人もたくさんいることを忘れないでください。
部下指導でやってはいけない5つのチェック項目
部下への指導でやってはいけないことが5つあります。
「こうしたらうまく指導できる」の前に「指導でやってはいけないこと」が頭に入っていないと結局上手に指導はできません。
じっくり読んで自分はあてはまらないか必ずチェックしてみてください。もし、うっかり1つでもやっていたら理由を心に刻みこんで、これからはやらないようにしてくださいね!
上から目線で指導する
もしあなたがとても仕事ができる人であっても、エラそうに指導をしていたら部下は反発するでしょう。あなたのほうが仕事の経験は長いのですから、部下より仕事ができるのは当たり前です。
経験年数が長いから「エライ」のではありません。
例えば「こんなこともわからないの?」「え? 私たちのころは教えてもらわなくてもできたよ」などの発言は絶対にNGです。
あなたももし外国語を習いに行って講師から同じことを言われたらどう思いますか?
「は? こっちは初めて習うんだけど?」と思うのではないでしょうか。
部下を指導する時もまったく同じです。エラそうな態度を上司や先輩からとられてしまうと部下のは自信もやる気もなくしてしまいます。
感情的に指導する
指導は通常、自分の仕事もしながらやることが多いですよね。そのため自分の時間が部下にとられたような気がしてイライラしてしまう人もいるでしょう。
ですが、そうしたことに腹を立て、部下を怒鳴ったり、暴力をふるったりしては絶対にいけません。
例えば、あなたにとっては当たり前のことを質問された時、 「こんな常識を知らないなんて親の育て方がダメだったんだな!」のような暴言を吐いてしまうと、部下の心は深く傷ついてしまいます。
あなたも初めてやることに対して同じように言われたらどう思いますか?
「二度とお前には質問なんてしない! こんなところ辞めてやる!」と思ってしまいますよね。
今の時代は働く人材が少ない時代です。信頼関係を作り、丁寧に教えて育てていかなければ、部下はすぐに辞めてしまいます。それはあなたにとってもマイナスです。
またいくら仕事ができても感情のコントロールができないのは、知性が低い人間だと思われてしまいます。腹を立てないことも仕事のうちだと思い、しっかり感情の手綱をコントロールしましょう。
一方的に押し付ける
部下がミスしたら困るという理由で、事務的な作業ばかり押しつけていませんか?
確かに始めはミスをするかもしれません。しかしそれはあなたも通ってきた道のはず。本当はクリエイティブな仕事がしたいのに、一方的に作業ばかりの仕事を押し付けられたら部下のやる気を失われてしまいます。
部下は仕事を失敗しながら覚えていくものです。何もできなさそうにみえても、しっかりと手順を追って指導すれば成長してくれます。
また上司であるあなたも部下が失敗することで責任の取り方や教え方を見直す機会となり、あなた自身も成長することができるのです。
部下の「成長したい!」という意欲を無視して、一方的な作業ばかり押し付けないように気を付けましょう。
部下をコントロールしようとする
「過去と他人は変えられない」という言葉があります。
あなたの部下も他人です。いくらあなたが「変われ!」と言ったところで、本人にその気がなければ変わることはありません。
そのためまずは部下をコントロールしようとするのはやめましょう。あなたができるのは、部下が自分で判断する一歩手前まで連れて行く手助けだけです。
「こうしなさい」「ああしなさい」と言われると人は反発したくなります。一方で「これってなんで必要なのかな?」と質問されると人の脳は答えを探そうと一生懸命考え始めます。
コントロールするのではなく、気づきを与えて本人に選択させる。部下が自ら出した答えは部下がきちんと責任をもって実行しようとしてくれるはずです。
指導はあくまでも部下が自立するための手助けに過ぎないと考えるようにしましょう。
自分の非を認めない
PRESIDENT WOMANの調査によると「器が小さい」と思う上司の行動1位に「自分の非を認めない」が選ばれています。
例えば、
「先輩の作った発注書。計算がずれているようなのですがどうしましょう」
「あなたは人のミスつついている場合じゃないでしょ? 揚げ足とりだけは上手よね」
などと、謝ることも感謝することもなく逆ギレする上司の話はよく聞きます。ひどい上司になると部下に責任転嫁するなんてこともあります。
いくら仕事ができる人間でも間違いをすぐに認めることができない人は、信頼を失っていきます。
イギリスの詩人アレキサンダー・ポープは「間違いを認めることを恥じる必要はない。それは言い換えれば昨日より賢くなったということなのだから」と言っています。
人間誰でもミスはします。くだらないプライドは捨てて真摯に謝罪できる格好いいところを部下に見せてあげましょう。
部下を指導するときにやるべきこと
部下を正しく指導するためにすべきことはたったひとつ。それは「信頼関係の構築」です。
指導と聞くと、上下関係があり体育会系のイメージがつきまといますが、決してそうではありません。上下関係ではなく横の関係をどう作っていくかを重視します。
そして信頼関係を築いていくには相手を「受け入れ認める」ことが何より大事です。
上司であるあなたの方からそういう姿勢をもってください。部下のほうから歩み寄るべきだと思わずに、あなたの方から受け止めてあげる心のクッションを作ってあげましょう。
ミスをすることも、教えたことを忘れることもあるのが人間です。画一的なロボットではなく、それぞれ個性があるからおもしろいのです。
信頼関係という横のつながりを作ることで大きなパワーが生まれるはずです。
段階的に部下を指導する
ここからは実際に部下を指導する時の方法を紹介します。ポイントは「段階的に指導する」ということです。
あなたもやったことない作業を急にやれと言われたら戸惑うし間違いますよね? かといって、一気に1から10までの指示を出されても完璧に覚えることはできないと思います。
一般的に初めて聞く内容は1~2個の情報しか頭に入らないと言われています。相手がそのような状態の時にいきなりやらせたり一気に教えたりしても覚えられません。
そのため一段ずつ階段を上がっていくように、段階的に指導しましょう。
ステップ1 教える(ティーチング)
人によっては仕事のスキル云々以前に、ビジネスマナーも接遇もまったく知らないという人もいます。それはそうです。義務教育で教えられたわけではありませんものね。
このように「知らない」ことを「知る」の状態に変えるには教えるという方法しかありません。
昭和の時代は「仕事は見て覚えるもんだ」といい、一人前になるのに10年と言われていた時代がありました。もちろん「見て技術を盗む」のも一つの方法です。しかしそれは悪く言えばただの放置で大変効率も悪いです。今の時代にはまったくそぐわないのでやめましょう。
残念ながら今の時代は何年も同じことだけを辛抱強く続けてくれる人はほぼいません。「見て覚えろ」なんて言ったら離職する人だらけになってしまいます。
早く一人前になってもらうためには、しっかりと教えてサポートした方が効率もよくあなた自身も楽になります。
教えることを面倒くさがらず、しっかり手順を見せてあげたり資料を見せたりしてきちんと説明をしてあげましょう。
ステップ2 理解させる(トレーニング)
人は「知る」状態になったからといって「できる」ようになるわけではありません。
自動車学校でも座学で知識のインプットをしただけで自動車が運転できるようにはなりませんよね? それと同じで部下を指導する時も教えた後に実際に体験してもらうなどアウトプットさせることが必要です。
体験というアウトプットをすることで部下は頭の中にある理想と現実とのギャップに気づきます。何が足りないのか? と考えながら何度も繰り返すことで次第に「できる」ようになっていきます。
ステップ3 気づかせる(コーチング)
人材育成の分野で今でも人気なテーマがコーチングです。
コーチングとは質問という手段によって、相手の中にある答えを引き出す方法です。セミナーやビジネス書では万能の特効薬のように語られることが多いですが、そもそも相手の中に知識がないと答えを引き出すことはできません。
コーチングは掛け算です。相手の知識がゼロの状態ではどんな数字を掛けようとゼロのまま。そのためこの記事ではまずゼロを1にするティーチングという足し算をステップ1として説明しました。
一方で、基礎的な知識が頭の中にあれば部下はちゃんと自分で考え行動しようとしてくれます。いつまで経っても手取り足取り教えるのではなく、ある程度できるようになったらティーチングからコーチングへと移行しましょう。
ステップ4 任せる
仕事ができるようになり、自分で考えて行動するようになればあとは大詰めです。
ここまでくれば仕事を任せるステップに入っていいでしょう。しかし多くの上司は仕事を部下に任せることに不安を覚えます。
「あいつにはまだ早いんじゃないか」「もう少し経験させた方が」このように思う人も少なくありません。
しかし任せるというのは決して丸投げをすることではありません。丸投げは仕事と責任だけ押し付けて放置することです。一方任せるは目的と責任の範囲を決めて部下に仕事を委ねることです。
つまり任せた範囲外のことについては上司がしっかりと責任をとらなければなりません。また任せた範囲であっても部下が困っている時はいつでもサポートできるようにします。
部下が安心感と責任感の両方をバランスよく持つために、正しい意味で仕事を任せるようにしましょう。
部下の指導で重要な褒め方
部下の指導では仕事を教える他に、褒めることでモチベーションを維持してもらう必要があると考える人もいるでしょう。
しかし「褒める」という行為は、上下関係を前提にしたものです。個人心理学を創始したアルフレッド・アドラーは人を教育する際に「褒めてはいけない」と言っています。
例えば仕事がうまくいったときに褒められた部下は、また「褒められる」ために行動しようとします。これは他人の支配下に置かれながら自分の行動を決めていると言わざるを得ません。
これだと、いつまで経っても部下は自立できませんよね。
では褒めずにどうやってモチベーションを維持してもらうのでしょうか?
それは、あくまでも横の関係として相手を受け入れるようにすることです。
例えば「先月は営業成績トップだったらしいな。よく頑張った!」というほめ言葉は上が下を評価する言葉です。そこには上下関係が存在し部下は無意識のうちに上司に支配されていることになります。
これが「先月は営業成績トップだったらしいな。おかげで俺の部署も安泰だよ。本当にありがとう」という言葉だったらどうでしょう。
「ありがとう」または「助かるよ」という言葉は上から下への評価の言葉ではなく、相手を受け入れる言葉です。
お互いを尊重しあう信頼関係を構築するために、上下を前提とする「褒める」という行為ではなく、横の関係を前提とする「受け入れる」言葉で部下の自立を促していきましょう。
まとめ
部下を指導する上でもっとも大事なことは「対等な関係」を意識することです。部下は決してあなたの下にいる人間ではありません。
横の関係であるという意識をしっかりすることで部下異動でもっとも重要な信頼関係もうまく作ることができます。
部下の立場の人にインタビューすると 「先輩が怖くて質問しにくい」 「もっと丁寧に教えてほしかった」 などの声をよく聞きます。
信頼関係があると、お互い聞きたいことも言いたこともうまく伝えられるようになり、スムーズに仕事が進みます。
というわけで今回は部下指導でやるべきたった1つのことを紹介しました。