どうしても納得できないことがあって相手を論破したいと思っていませんか?
おかしいなと思う部分を突っ込んでみても、相手の方が一枚上手で逆に論破されてしまう……。こんな経験はないでしょうか。
そこでこの記事では、相手を論破したい時に使える議論のフレームワークとその方法を紹介します。
この技術を身に付ければ易々と相手に言い負かされることはなくなります。ぜひ最後まで読んでコツを掴んでくださいね。
論破とは?
そもそも論破とはどういう意味でしょうか?
論破とは、相手の主張する説のおかしな点や間違いを指摘し、相手の説を破ることです。
例えば、上司から「年収と読書量は比例するというデータがある。年収を上げたいなら読書量を増やしなさい」と言われたとしましょう。
それに対し、
「そのデータは書籍の購入金額と年収が比例するとしたものです。単価の高い書籍を購入している場合や、年収が高いがゆえに書籍に使えるお金が多いだけということも考えられます。よって読書量を増やせば年収が上がるというには無理があります」
と言われたら上司はそれ以上自分の説を押し通すことが難しくなります。
このように相手の説が正しくないことを証明したり、論理を成立させなくしたりすることを論破するといいます。
論破する必要があるか考えよう
この記事は相手を論破したいと考える人のためにその方法や技術を紹介しています。
しかし、冷静になって今一度考えてほしいのですが、本当に相手を論破する必要があるのでしょうか?
というのも、ディベートや重要な提案を通すための会議などでない限り、相手を論破することは人間関係を悪くする要因になり得るからです。
先ほど「読書量と年収は比例しない」とした部下の論破例を紹介しましたが、議論で打ち勝つことは出来ても上司からは「なんだこいつ」と嫌われてしまう可能性がありますよね。
もっと言えば上司は部下のためを思って言ってくれたふしもあります。そうした相手の意図を無視して単に「間違っているから正してやろう」という自己満足だけで論破することはおすすめできません。
良好な人間関係を維持することはプライベートでもビジネスでも優先度の高いことなので、本当に論破する必要があるのかよく考えるようにしましょう。
論破の前にまずは論理的な話法を身に付ける
論破するということは、相手が何かを主張してきた時にそれに言い返すということです。
ネットで検索すると「相手を論破するコツ」というようなタイトルのものが見つかり、大抵が「〇〇の質問をする」とか「相手を怒らせる」などと書いてあります。
もちろん、テクニックとしてはアリですが、相手を真っ向から論破したいのであれば、まずはこちらが論理的な話法を身に付けるべきでしょう。
言い換えしのテクニックだけでなく、そもそも論理的に話すというのがどういうことかわかっていれば、相手の攻撃(主張)の欠点も見えてきますよね。
論理的な話法を身に付けるにはトゥールミンロジックというフレームを活用することをおすすめします。
トゥールミンロジックは「すべての人間は死ぬ」で有名な三段論法(演繹法)の論証を不十分としてイギリスの哲学者・スティーブントゥールミンが開発したものです。
三段論法の不十分な点は「すべての人間は死ぬ」という普遍的で絶対的な大前提がこの世にほとんどないことです。
仮に大前提が絶対的な真でなければならないとすると、真でない論理を組み立てることができなくなってしまいます。
また絶対的な大前提に対しても「中には死なない人間もいるかもしれない」という反論を許すことができます。
そこでトゥールミンは大前提を絶対的なものではなく、相対的かつ不確かなもの(=蓋然性)と割り切った上で論証を重ねていくべきと考えました。
「すべての人間は死ぬ」についても「私の知る限り死ななかった人間はいない(相対的)のですべての人間は死ぬだろう(蓋然性)」を大前提にすれば、「中には死なない人間も……」という反論はできなくなります。
つまりトゥールミンロジックは、論理で正しさを証明する技術ではなく、論理でより確からしさがあることを説明するための方法ということができます。
したがってトゥールミンロジックにおいては、蓋然性の高い証拠を集め、主張に繋げることが重要になってきます。
トゥールミンロジックを使った方法
トゥールミンロジックでは次の4要素を基本に説の確からしさを説明します。
・主張
・根拠
・論拠
・裏付
順番に解説します。
主張
主張は自分が正しいと思ったこと、相手に受け容れてもらいたいと思うことを表明することです。
例えば、あなたが自分の子供に朝ごはんを食べてもらいたいと思ったら「朝ごはんを食べなさい(=食べるべきだ)」と言いますよね? これが主張です。
ただこれだけでは単なる押し付けになってしまいます。理由もなく「朝ごはんを食べるべきだ」と言われても何の説得力もないですよね。
そこで、根拠や論拠が必要になります。
根拠
根拠は客観的な事実(データ)のことです。事実は誰でも見たり聞いたり経験できるものをいいます。
例えば先ほどの主張に対する根拠は「朝ごはんを食べないグループに比べ、食べるグループの方が健康診断の結果が良い」というようなデータです。
健康診断の結果は目視などによって誰でも観察できるものですよね。見る人によって内容が変わることはありません。
このように誰でも観察可能で見る人によって変化が生じない客観的な事実を根拠といいます。
論拠
論拠とは理由付けのことで、根拠と主張を繋げる橋渡しのような役割をします。
「朝ごはんを食べる人の方が健康診断の結果が良い」というのは健康診断の結果の良し悪しを示しただけで、なぜ朝ごはんを食べるべきなのかという説明にはなっていません。
そこで、上記の事実から「健康診断の結果が良いということは、朝ごはんは健康に良いといえる」という理由付けをします。
こうすることで「朝ごはんを食べる人の方が健康診断の結果が良い」という根拠から「朝ごはんは健康に良いといえる」という理由付けをした上で「だから朝ごはんを食べるべきだ」いう主張に繋げることができます。
裏付け
しかし、中には「朝ごはんを食べたから健康診断の結果が良くなったとは限らない」という反論を唱える人もいるでしょう。
そこで論拠の強度を高めるために、「食べないグループと食べるグループは運動量、睡眠量などすべて同条件の下で行った」という別の根拠を備えます。
そうすることで相手が論破する余地を減らすことができます。このような論拠を支える別の根拠を裏付といいます。
以上4つの要素を備えることで蓋然性の高い論理を構成することができます。
論破の方法
トゥールミンロジックの構成を理解すると、主張を論じ返す反駁(はんばく)ができるようになります。
根拠や論拠で主張が成り立っていることを知っていれば、相手の根拠や論拠の不十分さを指摘し論破できます。
また、相手の根拠や論拠に不十分さや矛盾があれば論理を覆すことも可能です。
あなたの「論破したい」という目的も、トゥールミンロジックの技術を用いれば可能となるでしょう。
そこでここからは反駁を用いた論破の方法について解説します。
主張を覆す反駁の方法
主張を除く論拠、根拠、裏付けのうちどれか1つでも欠けていたり矛盾が生じたりすると相手の反駁、つまり論破を許すことになります。
裏を返せば根拠、論拠、裏付のどれかに疑いの目を向け、矛盾や欠如を指摘することで相手を論破することができるのです。
根拠だけで論拠がない。論拠はあるけど根拠がないというような場合は簡単に論破することが可能です。
例えば「日本にはギャンブル依存症の人がいる。だからカジノ法案は廃止すべき」という主張は、根拠はあっても論拠が存在しません。
そこで「どうしてギャンブル依存症の人がいることでカジノ法案を廃止すべきと言えるんだ」と論拠の欠如を指摘することで相手を論破できます。
また「ギャンブル依存症の人が増えるのでカジノ法案は廃止すべきだ」のように根拠が欠けていることもあります。
その場合は「カジノでギャンブル依存症が増えるという証拠がないぞ」と反駁し論破することができるでしょう。
なお、4要素のうち主張に反対することはその人の人格を否定することになり論破したとは言えません。(例:カジノ法案を廃止すべきだなんてどうかしている、等)
反駁はあくまでも根拠、論拠、裏付という土台に対して行うものと覚えておきましょう。
論破をするための手順
ここからは実際に論破する時の手順について説明します。
相手の論理を整理する
相手を論破するためには、まず相手の述べたことが主張、根拠、論拠、裏付のうちどれに当てはまるのか整理します。
自分の意見を論理的に伝えられる人は意外と多くありません。もっともらしく聞こえることも、根拠や論拠が抜けていることがよくあります。
そのため、何が主張か、何を根拠に主張しているのかなど相手の発言を分類することで攻撃箇所が明確になり、論破する際の手助けになります。
例えば、相手が「A社ではノー残業デーを取り入れた。その結果、従業員満足度が向上した。だから弊社もノー残業デーを取り入れよう」と述べたら、主張は「弊社でもノー残業デーを取り入れるべき」、根拠は「A社はノー残業デーを取り入れた」、論拠は「ノー残業デーを取り入れたことで従業員満足度が向上した」と整理できます。
根拠を調べる
相手の論理を整理したらまずは根拠を疑いましょう。
根拠の出どころ(いわゆるソース)の信頼性は高いか? データに間違いはないか? など、相手の述べたことをそのまま信じるのではなく、しっかりと調べるようにします。
調べてみると意外にも「友達から聞いた」とか「世の中の常識だから」というようにいい加減な根拠を盾に主張していることが多いものです。
例えば、「A社がノー残業デーを取り入れた」という根拠があれば、まずはA社が本当にノー残業デーを取り入れたかを調べます。また、取り入れていた場合でも実際にノー残業を守っていた従業員が10%しかいないような場合はデータの信頼性が低くなります。
論拠に無理がないか考える
最後に論拠に無理がないかを考えます。
根拠もあり、データが正しい場合でも、その根拠からその主張につなげるには無理があるという論拠は結構あります。
例えば、ノー残業デーを取り入れたA社と弊社の業態が全く違う場合、必ずしもA社と同じような効果がでるとは言えません。また業態が同じだったとしても営業と事務のように仕事内容が異なることもあります。
相手の論理を整理し、根拠や論拠におかしな点があれば迷わずそこを攻撃します。
それによって相手が何も言い返せなくなれば、見事論破したということになります。
論理を構成して論破する方法
反駁して論破しようとすると、根拠や論拠が弱いことを開き直って強引に主張を押し通そうとする人もいます。
そういう相手の場合は、矛盾や欠如を指摘するのではなく、新たに対立する論理を構成して相手の主張を覆すようにします。
例えば、先ほどの「弊社でもノー残業デーを取り入れるべき」に対しては、
・〇〇の調査によるとノー残業デーを取り入れたことで固定労働時間制の会社の従業員満足度は向上したが、変形労働時間制の会社の従業員満足度は変わらなかった(根拠)
・弊社は変形労働時間制であるためノー残業デーを導入しても効果が薄いだろう(論拠)
・よって画一的なノー残業デーの導入はやめるべき(主張)
のように別の根拠や論拠をもって対立する主張をするようにします。
ちなみに新たに論理構成をして反対することは反駁ではなく反論といいます。
反論の際は相手の主張に対し、よりメリットがある、もしくはデメリットがあるということを強調するのが効果的です。
先ほどの例でいえば「ノー残業デーの導入により他の曜日にしわ寄せがきて、結果として従業員が過労死した」という根拠があれば、「従業員の満足度向上」という相手方の主張よりデメリットが上回ります。
反論の主張の方がメリット・デメリットで上回れば、相手も主張を取り下げる他ないでしょう。
まとめ
トゥールミンロジックは議論の技術です。議論はディベートと表現されますが、ディベートの本来の目的は相手を論破することではなく、対立する両案から最適解を導き出すことです。
トゥールミンロジックを身に付けることで主観や経験則だけで物事を判断することがなくなり、客観的な判断ができるようになります。
論理的に話す技術を身に付ければ相手を論破することも可能ですが、そもそもは誰かを攻撃するためではなく、より正しい方向に自分や相手を導くものだということを覚えておきましょう。
というわけで今回は相手を論破したい時に使えるトゥールミンロジックについて解説しました!