仕事で認識のズレが起きる主な原因は、上司と部下とで「見ているもの・見えている広さ・見ている高さ・見ている角度」が違うことです。株式会社あたまでは、この違いを「目線ズレ」と呼んでいます。ズレを4つに分けて考えると、指示や報告のどこを確かめればよいかが分かります。
この記事では、職場で起きやすい認識のズレを4つの目線に分けて説明し、上司と部下のそれぞれが今日から使える確かめ方を紹介します。
職場のすれ違いは、「目線ズレ」から起きている
上司が部下に「このデータ、わかりやすくまとめておいて」と頼んだとします。部下は、データを分析した上で、グラフと図解を使ったスライドにまとめようと考えました。一方で上司が求めていたのは、要点だけを書いたA4一枚のサマリーでした。
二人とも「わかりやすく」という同じ言葉を聞いています。それでも、部下は「見る人が理解しやすい資料」を、上司は「自分が短い時間で読める資料」を思い浮かべていました。言葉を交わす前の段階で、二人が見ていたものが違っていたのです。
このようなズレは、どちらかの能力が低いから起きるものとは限りません。同じ会議に出ていても、人によって見ているもの、見えている広さ、見ている高さ、見ている角度が違います。そのため、同じ言葉を聞いても受け取り方が変わります。
認識のズレを生む4つの目線ズレ

目線ズレは、次の4つに分けられます。ズレがどこで起きているかが分かれば、相手に確かめる質問も決まります。
視点のズレ(見ているもの)
視点は、本人が選んで注目していることです。仕事の目的や話の論点、論理と感情のどちらを見ているかが含まれます。
たとえば部下が「もう無理です」と言ったとき、上司は仕事の進め方の問題として受け取り、改善策を並べることがあります。ところが部下が伝えたかったのは、仕事量に対するつらさでした。上司は論理を、部下は感情を見ているため、上司が正しい改善策を出しても、部下は「話を聞いてもらえなかった」と感じます。
確かめる質問の例:「今いちばん困っているのは、仕事の進め方ですか。それとも、量や気持ちの負担ですか」
視野のズレ(見えている広さ)
視野は、本人が持っている情報や、知っている時期、覚えていることの範囲です。視点と違い、本人が選べるものではありません。
たとえば朝に「この設備は今日一日使えません」と伝えた後、修理が長引き、翌日の午前まで使えなくなったとします。最初の連絡だけを聞いた人は、翌日には使えると考えるでしょう。その人は、最初の情報をもとに筋の通った判断をしています。足りないのは、変更後の情報です。
確かめる質問の例:「この件で、最後に受け取った連絡はいつのものですか」
視座のズレ(見ている高さ)
視座は、どの立場から見ているかです。上司と部下、送り手と受け手、社内と社外とでは、同じ出来事でも見え方が変わります。
担当者は、自分の仕事が期限までに終わるかを見ます。部門長は部門全体への影響を、経営者は会社全体や数年先まで含めて判断します。役職が上がるほど見える範囲は広がりますが、現場でしか見えない具体的な事実もあります。どちらが正しいかを決めるより、今の論点について、どの立場の情報が足りないかを考えます。
確かめる質問の例:「この進め方を、お客様の立場から見ると、気になる点はありますか」
視角のズレ(見ている角度)
視角は、これまでの経験や価値観から生じる見え方です。同じ言葉でも、過去に働いた職場や経験した仕事によって、受け取る意味が変わります。
たとえば「早めに返信してください」と言われたとき、前の職場で「当日中」が当たり前だった人と、「今週中」で問題がなかった人とでは、行動が変わります。どちらも自分の経験に沿って、誠実に判断しています。
確かめる質問の例:「『早めに』は、何日の何時までと考えればよいですか」
上司が指示するときに目線をそろえる3つの方法
指示を出す側は、自分の頭の中にある条件が、相手にも見えていると考えがちです。次の3つを行うと、指示を出す段階でズレを小さくできます。
1. 目的と完成した状態を先に伝える
作業の手順より先に、「何のために、どの状態になれば完成か」を伝えます。「印刷しておいて」だけでは、何部必要か、片面か両面か、何時までにどこへ置けばよいかが、指示した人の頭の中に残ったままになります。
「明日10時の役員会議で配るので、報告書を10部、両面で印刷して、9時半までに会議室の机に並べてください」と伝えれば、部下は途中で迷っても、目的に立ち返って判断できます。指示に入れる条件については「部下指導がうまくいかない原因と伝わる指導のコツ」でも詳しく紹介しています。
2. 抽象的な言葉を、行動まで具体的にする
「わかりやすく」「早めに」「しっかり」「連携を強化する」といった言葉は、聞いた人によって思い浮かべる行動が違います。「具体的には何をすればよいか」を自分に問い、相手が同じ行動を思い浮かべられるところまで言い換えます。
- 「早めに返信して」→「今日の17時までに返信して」
- 「わかりやすくまとめて」→「会議の前に私が3分で読めるよう、要点をA4一枚にまとめて」
- 「営業部との連携を強化して」→「進み具合を、毎週月曜に営業部へメールで共有して」
すべての言葉を細かく定義する必要はありません。誤解されたときに、仕事への影響が大きい言葉から具体的にします。
3. 「分かりました」で終えず、相手の言葉で返してもらう
指示の後に「分かった?」と聞くと、多くの人は「はい」と答えます。返事だけでは、相手が何を理解したかは分かりません。「念のため、何をいつまでにやるか、あなたの言葉で教えてもらえますか」と、要点を返してもらいます。
返ってきた内容が自分の意図とずれていたら、そこが目線ズレの起きている場所です。その部分の説明だけを変えて、もう一度確かめます。
このとき、部下からの質問を、反抗や能力不足のしるしとして扱わないようにします。質問しにくい職場では、部下は分からないまま作業を始め、やり直しが増えます。上司のほうから「分かりにくいところはありますか」と聞くようにしましょう。
部下が指示を受けるときにできること
ズレを防ぐ工夫は、指示を受ける側にもできます。
- 話を最後まで聞いてから質問する(途中で自分なりに解釈して動き出さない)
- メモを取る
- 成果物・期限・優先順位・報告の方法を復唱する
- 分からない言葉はそのままにせず、最後にまとめて質問する
復唱するときは、上司が使った言葉をそのまま使います。上司が「警告の表示が出た」と言ったのに「エラーですね」と自分の言葉に置き換えると、確かめたつもりで内容を変えてしまうことがあります。なお、安全にかかわる誤りに気づいたときは、最後まで待たずにその場で確認してください。
確認の言い方の例:「明日の会議用に、売上データの要点をA4一枚にまとめて、今日の17時までにお送りする、ということで合っていますか」
「もっと上の目線で」と言う前に
部下に「もっと経営者目線で考えて」「視座が低い」と伝えても、部下は何を変えればよいか分かりません。言われた側は、萎縮するか、反発することが多くなります。
代わりに、部下が今見ている対象・期間・成果と、上司が求めている対象・期間・成果の違いを、具体的に示します。
たとえば、ある社員が補助金の採択を「○○事業 採択のお知らせ」という件名だけで報告したとします。社長が知りたかったのは、その採択がお客様と会社にとって何を意味するかでした。この場合は「件名の下に、採択によってお客様と会社に何が起きるかを一行で書いてください」と伝えれば、部下は次の報告で何を変えればよいかが分かります。
また、視座を上げてほしいときは、その立場で判断するのに必要な情報も渡します。全社の数字や今後の計画を見せないまま「会社全体のことを考えて」と求めても、部下は見えていない範囲のことを考えられません。
ズレが繰り返し起きない場をつくる
目線ズレは、一度そろえても、仕事の状況や担当が変われば再び起きます。そのため、目線をそろえる場を、職場の仕組みとして持っておくことが大切です。
- 週に一度、目的と優先順位を確かめる短い打ち合わせを設ける
- 予定や方針が変わったら、変更後の情報を改めて伝え、誰が受け取ったかを確かめる
- 「聞いていない」「そんなつもりではなかった」と感じた小さな出来事を書き出し、チームで共有する
小さな出来事を共有するときは、個人名を出したり、誰が悪いかを決めたりしないことが前提です。目的は、どの目線がずれていたかを見つけ、次に同じことが起きないようにすることです。
まとめ
仕事の認識のズレは、上司と部下の「目線ズレ」から起きています。目線ズレは、視点(見ているもの)、視野(見えている広さ)、視座(見ている高さ)、視角(見ている角度)の4つに分けられます。指示する側は、目的と完成した状態を伝え、抽象的な言葉を具体的にし、相手の言葉で返してもらいます。受ける側は、相手の言葉のまま復唱して確かめます。まずは次に仕事を頼むとき、「あなたの言葉で教えてもらえますか」と一言添えるところから試してみてください。
職場の目線ズレに取り組みたい企業・団体の方へ

株式会社あたまでは、職場のすれ違いを「目線ズレ」から読み解き、目線をそろえる方法を、講演・研修・コンサルティングでお伝えしています。代表講演「なぜ、話しているのに伝わらないのか」は、経営者、管理職、人事・組織づくりに関わる方を対象に、会議や面談で試せる方法をお話しする内容です。管理職研修や新人フォローアップ研修、経営者の考えを社内に伝わる言葉にする継続支援も行っています。
ご相談はお問い合わせフォーム、またはメール(support@atama.co.jp)で受け付けています。会議の進め方を見直したい方は「会議で話がまとまらない原因と対策」、経営者の方は「社員がついてこないと感じる社長へ」もあわせてご覧ください。

