「来月から、新人のOJTをお願いね」と言われたものの、自分の仕事もあって教える時間が取れない、自分は「見て覚えろ」で育ったので教え方が分からない、教えたはずなのに同じミスが続く、など、OJTの進め方に頭を悩ませていないでしょうか。

OJT研修がうまくいくかどうかは、トレーナーの話のうまさで決まるわけではありません。決まるのは、始める前に到達点と役割分担を決めているか、現場で決まった手順で教えているか、理解を本人の説明で確かめているかの3つです。

この記事では、OJTを始める前に上司・人事とトレーナーで決めておく3つのことと、トレーナーが現場で使う5つの手順を、会話例と一緒にご紹介します。新人が不安そうなときの聞き方や、トレーナーがやりがちな言い方の言い換え例も分かります。

OJT研修がうまくいかないのは、トレーナーと新人で「見えている範囲」が違うから

OJTがうまくいかない一番の原因は、トレーナーが新人の目線に立って教えられていないことです。なぜなら、仕事に慣れた人ほど手順の一部を無意識に行っていて、自分が何を判断しているのかを言葉にしないまま教えてしまうからです。

たとえば「前の見積書を参考に、A社の見積書を作っておいて」と頼んだとします。トレーナーの頭の中には「値引きは5%まで」「合計が10万円を超えたら課長の承認が必要」「有効期限は1か月」という条件がありますが、新人に見えているのは前の見積書だけです。新人は前の見積書の書き方をそのまま写し、トレーナーは「どうして確認しないんだろう」と思います。

株式会社あたまでは、職場のすれ違いを「目線ズレ」と呼び、視点(見ているもの)・視野(見えている広さ)・視座(見ている高さ)・視角(見ている角度)の4つに分けて考えています。OJTで起きやすいのは、トレーナーには仕事の全体が見えていて、新人には目の前の作業しか見えていない視野のズレです。

目線ズレの4つの種類:視点(見ているもの)、視野(見えている広さ)、視座(見ている高さ)、視角(見ている角度)

さらに、OJTでは視座のズレも起きます。人事や上司は「現場に任せている」と考え、トレーナーは「本業の合間に教えている」と考え、新人は「誰に何を聞いていいのか分からない」と感じています。そのため、トレーナーの教え方を直す前に、OJT全体の決めごとをそろえておく必要があるのです。

OJTを始める前に、上司・人事とトレーナーで決めておく3つのこと

OJTを「現場に任せる」だけで始めると、教える内容も進み方もトレーナーによって変わります。そこで、始める前に次の3つを、上司・人事とトレーナーで決めておきます。

1か月ごとの到達点を決める

3か月のOJTを一続きで進めると、新人もトレーナーも、いまどこまで進んだのかが分からなくなります。株式会社あたま代表の木村は、コールセンターで新人研修を担当していたとき、約3か月の研修を1か月ほどの単位に分け、学ぶことと実務を行き来する形に変えました。研修期間中の離職率が約35%だった現場で、こうした教育の分け方や新人との関係づくりなど複数の取り組みを続け、その後3期続けて離職者0人になりました。

到達点は、「1か月後に、定価の見積書を一人で作り、トレーナーの確認を受けて送れる」のように、何が一人でできれば完了なのかが分かる文で書きます。進み具合は「学んだこと」「一人でできること」「手伝いがあればできること」「次に学ぶこと」の4つの欄で一覧にし、新人とトレーナー、上司が同じものを見られるようにします。

覚えること・資料で調べること・まだ担当しないことを分ける

新人が「全部覚えなければいけない」と思い込むと、それだけで負担が大きくなります。そこで、教える内容を次の3つに分けて、最初に新人へ伝えます。

  • 最初から覚えておくこと(例:見積書に必ず入れる項目、承認が必要になる金額)
  • 仕事中に資料で調べればよいこと(例:商品ごとの型番、送付先の住所)
  • 新人の段階ではまだ担当しないこと(例:値引きの交渉、例外的な取引条件)

何を覚え、何を調べ、どこから相談すればよいのかが分かると、新人は本当に覚えるべきことに集中できます。

相談できる相手を、トレーナー以外にも用意する

相談先がトレーナー1人だけだと、トレーナーが忙しい日や、新人がトレーナーとの関係に悩んでいるときに、新人は誰にも相談できなくなります。そのため、役割の違う相談先を複数用意します。

木村が新人教育を担当していた現場では、トレーナーのほかに、1年ほど先に同じ不安を経験した先輩をメンターとして付け、仕事以外のことも気軽に話せる相手にしていました。あわせて、トレーナーとは別の立場で2〜3週に1回の面談を行い、木村自身も毎日、朝は「昨日のあと、大丈夫だった?」、帰りは「今日はどうだった?」と全員に10秒ずつ声をかけて、その記録を残していました。

OJTの役割分担の図:上司・人事は到達点と計画を決め2〜3週に1回面談する、OJTトレーナーは毎日の指導と振り返りを行う、1年先輩のメンターは気軽な相談を受ける

ただし、メンターに相談対応を任せきりにはしません。新人の体調や退職の意向など、メンターだけで抱えてはいけない話を聞いたときに、誰へ伝えるかも決めておきます。

OJTトレーナーが現場で使う5つの手順と会話例

毎日のOJTは、次の5つの手順で進めます。ここでは、先ほどの見積書を例に、トレーナーの言い方をご紹介します。手順の考え方は「仕事の教え方がわからない人のための4ステップ」でも解説しています。

仕事を教える5つの手順:1 目的と完成形を伝える、2 全体を一度見せる、3 知らないところを説明する、4 本人にやってもらう、5 説明してもらい行動を返す。5で分からなかったところは3に戻る

1. 目的と完成形を伝える

最初に、何のための仕事で、どの状態になれば完成なのかを伝えます。目的が分かっていると、手順書に書いていないことが起きたときも、新人が目的に戻って考えられるようになります。

トレーナー「A社から、来月の発注を検討するために見積もりがほしいと連絡がありました。今日は、A社に送れる見積書を作って、私の確認を受けるところまでを一緒にやります」

2. 全体を一度見せる

細かい説明に入る前に、最初から最後まで一度やって見せます。このとき、メモを取らせながら見せると、新人は書くことに気を取られて全体の流れを見失います。

トレーナー「後でメモを取る時間を作るので、まずは最初から送る直前まで、流れだけ見てください」

3. 知らないところを説明する

2回目は、手を動かしながら説明します。ただし、クリック1回ごとに全部説明すると、大事なことが埋もれてしまいます。説明するのは、新人が知らなければ判断できないところです。

トレーナー「ここで確認しているのは2つです。値引きが5%を超えていないかと、合計が10万円を超えていないか。10万円を超えたら、送る前に課長の承認をもらいます」

説明の量は、相手の経験によって変えます。前職で似た仕事をしていた人と、見積書を初めて見る人とでは、知らない言葉も、一人でできる範囲も違います。最初に「見積書を作ったことはありますか」「どの言葉が分かりにくかったですか」と確かめておけば、新人が知らないところに時間を使えます。

4. 本人にやってもらう

説明が終わったら、新人に実際に作ってもらいます。トレーナーはすぐに手を出さず、どこで止まるか、何を勘違いしているかを見ます。お客様に送ってしまうと取り返しのつかない操作だけは、その場で止めます。

トレーナー「今度は〇〇さんが作ってみてください。私は横で見ていて、送る前に一緒に確認します」

5. 説明してもらい、行動を返す

作り終えたら、トレーナーが評価を言う前に、本人に振り返ってもらいます。そのあとで、トレーナーが見ていた行動を具体的に返します。

トレーナー「自分ではどうでしたか。どこが難しかったですか」
新人「値引きの欄で、いくらまで入れていいのか迷いました」
トレーナー「迷ったときに手を止めて、手順書を開いたのはよかったです。一つだけ、有効期限が空欄だったので、次は送る前に確認してください」

「よかったよ」「もっと頑張って」だけでは、新人は何を続けて、何を直せばよいのかが分かりません。直してほしいところがいくつもあるときも、一度に伝えるのは優先順位の高い1つか2つにします。同じ手順を別の会話例で見たい方は「教えるのが上手い人の特徴7つ」もご覧ください。

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「分かった?」と聞かずに、本人に説明してもらう

理解を確かめるときに「分かった?」「何か分からないことある?」と聞いても、ほとんどの新人は「大丈夫です」と答えます。分からないところがどこなのか、本人にもまだ分かっていないからです。そこで、本人に説明してもらいます。

  • 「今の手順を、最初から説明してみてください」
  • 「次に何を確認しますか」
  • 「ここで課長の承認が必要になるのは、なぜですか」

言葉にしてもらうと、どこまで理解していて、どこからあいまいなのかが、トレーナーにも本人にも見えます。何度説明しても同じところで間違えるときは、同じ説明を繰り返す前に、この確かめ方に切り替えます。

新人が2人以上いるときは、新人同士で話し合ってもらう

新人が2人以上いるOJTでは、トレーナーが手本を見せたあと、講評する前に新人同士で話し合ってもらいます。木村がコールセンターで行っていたOJTでは、直前の電話対応を題材に、「なぜその回答をしたのか」「自分ならどう答えるか」「お客様にもう一つ質問されたらどうするか」を話し合ってもらっていました。

こうすると、新人が見ているだけの時間がなくなり、トレーナーも新人同士の会話から理解の度合いを確かめられます。ただし、新人同士の答えには間違いも混ざるので、最後にトレーナーが正しい答えと判断の基準を確認します。

到達点の確認は、全員が答えられる3〜5問で行う

1か月ごとの到達点では、短い確認問題を作ります。この問題は、全員が基礎に届いたかを確かめるためのものです。そのため、全員が9割以上取れる程度の問題を3〜5問用意し、間違えた問題があれば、その部分だけを教え直します。

新人が不安そうなときは、3つに分けて話を聞く

OJTの途中で、新人が「自分には無理かもしれません」と口にすることがあります。そのときは、励ます前に、次の3つを分けて聞きます。

  • 何が負担になっているか(仕事の量、初めての業務、長い座学など)
  • それをどう受け止めているか(「全部覚えなければいけない」と思っていないか)
  • 負担を感じたあと、どうしているか(誰かに相談しているか、一人で抱えているか)

新人「覚えることが多すぎて、ついていける気がしません」
トレーナー「どのあたりが、一番多く感じますか」
新人「商品の型番が、全然覚えられなくて」
トレーナー「型番は覚えなくて大丈夫です。この一覧で調べられれば十分なので、調べ方を一緒に確認しましょう」

この例のように、受け止め方が原因であれば、覚える範囲と調べ方を伝えるだけで負担が軽くなることがあります。一方で、眠れない、体調が悪い、辞めたいと言っているなど、トレーナーだけで判断してはいけない様子があるときは、本人の了解を得て上司や人事に伝え、会社の決まった手順で専門の窓口につなぎます。

OJTトレーナーがやりがちな言い方と、言い換え例

木村は20歳で管理者になったころ、自分が研修だけで業務を覚えたこともあって、部下に「研修でやったよね」「マニュアルを読めないの?」と言っていました。部下が泣いたり辞めたりする理由が分からず、面と向かって「教え方が嫌い」と言われて、初めて教え方を変えなければいけないと気づきました。仕事を速く覚えた人ほど、相手も自分と同じ速さで理解できると考えてしまうのです。

よくある言い方と、言い換えの例をご紹介します。

悪い例:「研修でやったよね」
良い例:「研修でやったところですね。どこで止まりましたか」

悪い例:「マニュアルを読んでおいて」
良い例:「この手順は覚えなくて大丈夫です。マニュアルの3ページを見ながら、一度やってみてください」

悪い例:「困ったら聞いて」
良い例:「合計が10万円を超えたら、送る前に私に見せてください。私が席にいないときは、〇〇さんに聞いてください」

3つ目の例のように、いつ、誰に相談すればよいのかを具体的に決めておくと、新人は「こんなことで聞いていいのかな」と迷わずに済みます。教える側がついやってしまう行動は「教え方の下手な人がついやってしまう10の行動」にもまとめています。

まとめ

OJT研修の進め方を、3つにまとめます。

  • 始める前に、1か月ごとの到達点と、覚えること・調べること・まだ担当しないことを決める
  • 毎日のOJTは目的と完成形を伝えることから始め、最後は本人に説明してもらって行動を返す
  • 相談先をトレーナー1人にせず、メンターや面談の機会を用意する

明日、OJTを始める前に、「1か月後に、新人が一人で何をできるようになっていればよいか」を一文で書き出し、上司とトレーナーで見せ合ってみてください。書いた文が人によって違えば、そこがOJTで最初にそろえるところです。

OJTトレーナーの教え方を、研修でそろえたい方へ

株式会社あたまでは、新人や後輩を教える先輩・教育係の方に向けて、教育係(OJT担当者)研修を行っています。この記事でご紹介した、目的と完成形から教える手順、理解を確かめる質問、フィードバックの返し方を、ロールプレイで練習します。内容は、業務内容と新人の状況をうかがってから組み立てます。

社内でOJTの見直しを検討している人事・研修担当の方には、研修テーマと料金をまとめた資料(PDF・5ページ)をご用意しています。研修資料をダウンロードする ご相談はお問い合わせフォームから受け付けています。