「毎年コミュニケーション研修をしているのに、部署の間の連絡ミスが減らない」「ゲームで盛り上がった研修の翌日から、職場はいつもどおりに戻っている」「傾聴を学んだはずの管理職が、会議では部下の話を途中で遮っている」など、コミュニケーション研修の中身に頭を悩ませていないでしょうか。
コミュニケーション研修の内容は、「話し方」「聞き方」「報連相」といったテーマの一覧から選ぶより先に、自社の職場で実際に起きているすれ違いの場面を集め、その原因に合わせて決めると、研修のあとで職場の会話が変わります。同じ「伝わらない」でも、原因が違えば練習することが違うからです。
この記事では、すれ違いの原因を4つに分ける考え方と、原因別のワークと会話例、2時間半で行う研修の進め方の例、研修で学んだことを職場で使われるようにする方法をご紹介します。
コミュニケーション研修の内容は、職場で起きているすれ違いの場面から決めます
一般に、コミュニケーション研修の内容は、コミュニケーションの重要性、ビジネスマナー、話す力、聞く力などで組み立てられます。どれも必要な内容ですが、テーマを先に選ぶと、研修で練習したことと、職場で困っていることが合わなくなってしまいます。
たとえば、「報連相が足りない」という声が上がったとします。すぐに報連相の研修を選びたくなりますが、報告が上がってこない理由は職場によって違います。部下は、上司がその情報を必要としていることを知らないのかもしれませんし、忙しそうな上司に話しかけるタイミングが分からないのかもしれません。前者なら報告に入れる情報を選ぶ練習が、後者なら相談の時間や場を決めることが必要です。困った出来事を見てすぐに研修のテーマを選ぶと、原因と合わない研修になってしまうのです。
そこで、研修を企画するときは、まず職場で起きたすれ違いの場面を3〜5つ集めます。「誰が、誰に、何と言って、相手はどう受け取ったか」を、実際のセリフで書き出すのがポイントです。「コミュニケーションが足りない」のようなまとめた言葉のままでは、何を練習すればよいかが決まりません。
すれ違いの原因は、4つの目線のどれがズレているかで分けられます
次に、集めた場面を原因ごとに分けます。株式会社あたまでは、職場のすれ違いを「目線ズレ」と呼び、視点(見ているもの)・視野(見えている広さ)・視座(見ている高さ)・視角(見ている角度)の4つに分けて考えています。話している本人同士は同じものを見ているつもりでも、見ているもの、見えている広さ、見ている高さ、見ている角度が違うので、出てくる言葉がすれ違うのです。
- 視点(見ているもの):目的や論点、論理と感情のどちらを見ているか。例:上司は「納期」を気にして話し、部下は「品質」を気にして聞いている
- 視野(見えている広さ):持っている情報、時期、記憶の範囲。例:上司が知っている取引先の事情を、部下は聞かされていない
- 視座(見ている高さ):上司と部下、送り手と受け手、社内と社外といった立場。例:経営者には会社全体の数字が見え、現場には目の前の作業が見えている
- 視角(見ている角度):これまでの経験や価値観から生じる見え方。例:「早めに」を、ベテランは「今日中」、新人は「今週中」と受け取る
集めた場面を4つに分けると、自社で起きているすれ違いがどこに多いのかが分かります。視野のズレが多い職場なら情報の伝え方に、視座のズレが多い職場なら立場の違いを体験するワークに時間をかける、というように、研修の中心にする内容を決められます。上司と部下の間で起きるズレの例は「仕事の認識のズレが起きる原因と防ぎ方」でも詳しくご紹介しています。

原因別に選ぶ4つのワークと、研修の前後で変わる会話
では、4つの目線ごとに、研修で行うワークと、研修の前後で変わってほしい会話の例を、ひとつずつ見ていきましょう。
視点のズレ:「何のための話か」を言葉にして返してもらう
まず、視点がズレていると、話の中身は正しくても、相手が知りたいことに答えていない状態になります。よくあるのが、上司の「もっと具体的に」という指示です。
悪い例
上司「この企画書、もっと具体的にして」
部下「分かりました」(数字が足りないのかな)
翌日、部下は資料を10ページ増やして持ってきましたが、上司が知りたかったのは「誰が、いつまでに、何をするか」でした。
良い例
上司「この企画書、誰がいつまでに何をするかが分からないから、そこを具体的にして。数字は今のままでいいよ」
部下「担当者と期限を表にして足す、ということですね」
研修では、二人一組で、片方が仕事の依頼をし、もう片方が「何のための依頼か」「何ができていれば終わりか」を自分の言葉で返すワークを行います。依頼した側は、返ってきた言葉と自分の意図を比べ、違っていたところを言い直します。言い直す練習をしておくと、職場でも「分かりました」で終わらせずに確かめられるようになります。
視野のズレ:相手が持っていない情報を見つける
次に、視野がズレていると、話し手は必要なことをすべて話したつもりでも、相手には前提になる情報が抜けています。研修では、受講者にある社員についての情報をたくさん読んでもらい、「この社員は上司に何を報告したいのか」を答えてもらうワークを行います。ところが、肝心の報告の中身は資料のどこにも書かれていません。情報がいくら多くても、要点がなければ相手は判断できないことを、受講者が自分で体験するのです。ワークのあとには、足りなかった情報と、どう言えば伝わったかを全員で確かめます。
悪い例
部下「A社の件、先方の都合で延期になりました」
上司「えっ、いつまで? うちの発注はどうするの?」
良い例
部下「A社の件で、発注の判断に関わるご報告です。先方の都合で、打ち合わせが来週火曜に延期になりました。発注の締め切りは金曜なので、打ち合わせの前に仮の数量だけ決めておきたいのですが、よろしいでしょうか」
部下は「延期になった」という事実を伝えれば十分だと思っていますが、上司が知りたいのは、その延期で自分が何を判断しなければならないかです。報告の最初に「何の判断に関わる話か」を言うだけで、上司が聞き返す回数は減ります。
視座のズレ:役を入れ替えて、相手の立場から聞いてみる
一方で、視座のズレは、立場が違う人同士の間で起きます。上司は部署全体の優先順位を見て話しますが、部下には目の前の仕事しか見えていません。そのため、上司が「言わなくても分かるだろう」と省いた説明は、部下には一言も届いていないのです。
悪い例
上司「この件、急ぎでお願い」
良い例
上司「この件、明日の役員会で使うから、今日の17時までにお願い。今やっている見積もりより先にやってほしい」
研修では、上司役と部下役に分かれて指示の場面を演じ、終わったら役を入れ替えて、同じ場面をもう一度演じます。部下役をやってみると、「急ぎ」と言われても、ほかの仕事とどちらを先にすればいいのか分からないことに気づきます。見ている受講者にも、講師が講評する前に「自分が部下役ならどこで困ったか」「自分ならどう言うか」を話し合ってもらいます。見ているだけの時間をなくすためです。最後に講師が、職場で守ってほしい基準を確認します。
視角のズレ:「普通は分かるはず」の中身を言葉にする
最後に、視角のズレは、経験や価値観の違いから生まれます。本人にとっては当たり前すぎて、ズレていることに気づきにくいのが特徴です。「普通は分かるはず」「常識でしょう」という言葉が出てくるときは、たいてい視角がズレています。
研修では、「早めに」「ちゃんと」「なるべく」など、職場でよく使う言葉を1つ選び、受講者それぞれが思い浮かべる意味を紙に書いて見せ合います。同じ「早めに」でも、「今日中」「今週中」「手が空いたら」と答えが分かれるのを見ると、自分の「普通」が相手の普通とは限らないことが、説明しなくても分かります。
悪い例
「この資料、早めに見ておいてね」
良い例
「この資料、明日の朝10時の会議までに見ておいてもらえる?」
職場のどの場面で、どのワークに時間をかけるかは、会社によって違います。株式会社あたまの研修では、貴社の業務内容と、社員の方が日々直面している場面をうかがってから内容を組み立てます。研修テーマと料金を見る
2時間半で行うコミュニケーション研修の進め方の例
ここまでの4つのワークを組み合わせると、たとえば次のような2時間半の研修になります。株式会社あたまの研修は、講義3割、ワーク7割の割合で進めます。
- 10分:研修の目的の共有(事前に集めた職場のすれ違いの場面を1つ紹介する)
- 20分:講義「目線ズレの4つの種類」
- 25分:視点のワーク(依頼の目的と終わりの形を言葉にして返す)
- 25分:視野のワーク(情報は多いが要点のない資料を読み、報告の中身を答える)
- 10分:休憩
- 30分:視座のワーク(役を入れ替えたロールプレイと、見ていた人との話し合い)
- 20分:視角のワーク(「早めに」などの意味を見せ合う)
- 10分:職場で試すことを1つ決める
実際の研修では、事前に集めた場面の偏りに合わせて、時間の配分を変えます。たとえば、部署の間の連絡ミスが多い会社なら視野のワークを長くし、管理職だけが受講する研修なら視座のワークを中心にします。
アイスブレイクのゲームは、本題につながるものを選ぶ
なお、コミュニケーション研修の冒頭に、自己紹介ゲームやしりとりなどのアイスブレイクを入れることがあります。緊張をほぐすことは大切ですが、ゲームが本題とつながっていないと、楽しかった気持ちのまま「では、本題に入ります」と言われ、受講者はかえって緊張した状態に戻ってしまいます。私自身も、受講者として参加したロジカルシンキング研修で、冒頭のお絵描きしりとりはとても楽しかったのに、その後の研修の時間が苦痛に感じられた経験があります。
そのため、アイスブレイクは「緊張がほぐれるか」に加えて、「そのあとの本題に参加しやすくなるか」で選びます。たとえば、視角のワークで行う「早めに」の意味を見せ合う活動は、短く、答えが分かれて盛り上がるので、冒頭のアイスブレイクとしても使えます。ゲームを使う場合も、終わったあとに「今のゲームで伝わらなかったのは、なぜだと思いますか」と問いかけ、その答えから本題に入ります。
研修で学んだことを、職場で使われるようにする方法
ただし、研修の当日に受講者が「分かった」と感じても、職場で繰り返し使わなければ、会話は元に戻ります。研修の時間より大切なのは、研修のあとの職場での実践です。
そこで、研修の最後に、受講者一人ひとりが「明日から職場で試すこと」を1つだけ決めます。「指示を出すときは、期限を時刻まで言う」「報告の最初に、何の判断に関わる話かを言う」のように、行動で書くのがポイントです。一度にたくさん決めると、どれも続きません。
また、研修を企画した人事・経営者の方は、研修の前に集めたすれ違いの場面を、研修の1か月後にもう一度集めてみてください。同じ場面が減っているか、別のすれ違いが出てきているかを見ると、研修の効果と、次に扱うテーマが分かります。株式会社あたまの研修では、研修後3か月のフォロー(無料)の中で、研修後の課題提出や会議のサポートも行っています。
受講者によって、時間をかける目線を変える
たとえば新入社員向けなら、視野のズレ(報告に入れる情報)と視角のズレ(「早めに」などの言葉の受け取り方)に時間をかけます。配属後の報連相の研修は「新入社員フォローアップ研修の内容例」で、新人に仕事を教える先輩向けの研修は「OJT研修の進め方」でご紹介しています。管理職向けなら、部下に見えていない優先順位を言葉にする視座のズレが中心になります。管理職向けの内容は「管理職研修の内容と進め方」で詳しくご紹介しています。
まとめ
コミュニケーション研修の内容を決めるポイントを、3つにまとめます。
- 研修のテーマを先に選ばず、職場で起きたすれ違いの場面を、実際のセリフで3〜5つ集める
- 集めた場面を、視点・視野・視座・視角の4つの目線のどれがズレているかで分け、多いものにワークの時間をかける
- 研修の最後に「職場で試すこと」を1つ決め、1か月後に同じ場面が減ったかを確かめる
明日、職場で最近あったすれ違いを1つ思い出し、「誰が、誰に、何と言って、相手はどう受け取ったか」を書き出してみてください。4つの目線のどれがズレていたかが分かれば、それがコミュニケーション研修で最初に扱うテーマです。
コミュニケーション研修のご相談
株式会社あたまでは、職場のすれ違いを4つの目線に分けて考える研修を行っています。結論から話す型を身につける「伝わる話し方研修」や、相手の話を正確に聞き取る「傾聴力アップ研修」のほか、業務内容と課題をうかがってカリキュラムを1から作るオーダーメイド研修にも対応しています。この記事でご紹介したワークも、貴社の職場の場面を題材にして行います。研修後3か月のフォロー(無料)があります。
社内でコミュニケーション研修を検討している人事・研修担当の方には、研修テーマと料金をまとめた資料(PDF・5ページ)をご用意しています。研修資料をダウンロードする 全社員向けに目線ズレを知ってもらう講演「なぜ、話しているのに伝わらないのか」もお受けしています。ご相談はお問い合わせフォームから受け付けています。

