「管理職研修を毎年やっているのに、現場の指示の出し方が変わらない」「新任の課長に『自分で考えて』と言われた部下が困っている」「マネジメントの知識は教えたのに、部下との面談が雑談で終わっている」など、管理職研修の中身に頭を悩ませていないでしょうか。

管理職研修で一番時間をかけるべきなのは、管理職が頭の中に持っている判断基準を、部下が動ける言葉にする練習です。マネジメントの知識は本や動画でも学べますが、自分の部下に何をどの順番で話すかは、自分の部下の場面を題材にして書き出し、声に出して話してみるまで身につきません。

この記事では、管理職研修で扱う内容と、新任管理職がつまずきやすい3つの言い方の言い換え例、3時間で行うワークの進め方の例、研修の効果を確かめる方法をご紹介します。

管理職研修で教えるのは、判断基準を部下が動ける言葉にすることです

管理職研修というと、リーダーシップ、目標管理、評価、ハラスメント防止、コンプライアンスなど、管理職が知っておくべきテーマが並びます。どれも必要な知識ですが、知識を学んだだけでは、翌日からの部下への話し方は変わりません。なぜなら、管理職がつまずくのは「何を知っているか」より、「知っていることを部下にどう伝えるか」のほうだからです。

そもそも管理職の仕事には、部下に情報を伝えることに加えて、判断基準をそろえる役割があります。なぜそう判断したのか、何を優先したのか、どこまで任せるのか、どんな行動を評価するのか。これを言葉にしておくと、管理職がその場にいないときでも、部下が近い判断をできるようになります。

株式会社あたまでは、職場のすれ違いを「目線ズレ」と呼び、視点(見ているもの)・視野(見えている広さ)・視座(見ている高さ)・視角(見ている角度)の4つに分けて考えています。管理職と部下の間で特に起きやすいのは、視座のズレです。管理職には部署全体の優先順位が見えていますが、部下には目の前の仕事しか見えていません。そのため、管理職が「言わなくても分かるだろう」と省いた説明は、部下には一言も届いていないのです。上司と部下の間で起きる4つのズレは「仕事の認識のズレが起きる原因と防ぎ方」で詳しくご紹介しています。

目線ズレの4つの種類:視点(見ているもの)、視野(見えている広さ)、視座(見ている高さ)、視角(見ている角度)

なお、管理職研修を企画するときは、経営者が何を大切にし、どの行動をどう評価するのかを、経営者自身の言葉で管理職に伝える時間も入れておきます。評価の手順や制度の使い方だけを学んでも、判断が分かれる場面で使う優先順位がそろっていなければ、部署ごとに対応が変わってしまうからです。

新任管理職がつまずく3つの言い方と言い換え例

プレイヤーとして成果を出してきた人ほど、管理職になってすぐのころは、自分が分かっていることを部下も分かっている前提で話してしまいます。ここでは、新任管理職研修でよく題材になる3つの言い方を、ひとつずつ見ていきましょう。

「それくらい自分で考えて」

部下に自分で考えてほしいと思うこと自体は、間違っていません。しかし、部下が仕事の目的を知らず、必要なデータも持っておらず、どこまで決めてよいかも分からない状態では、考えようがないのです。

悪い例:「それくらい自分で考えてよ。もう2年目なんだから」
良い例:「今回は、来月の展示会までに新しいお客様からの問い合わせを増やすのが目的だよ。使える予算は10万円で、今のお客様への案内はこれまでどおりにしてほしい。この条件で、あなたならどうする?」

このように、目的・優先順位・使える予算や時間・守ってほしい条件を先に渡してから「あなたならどうする?」と聞くと、部下は考える材料を持ったうえで答えられます。

「この件、任せたから」

任せることと丸投げは違います。任せるとは、責任の範囲をはっきりさせて仕事を渡すことで、丸投げとは、責任の範囲を決めずに仕事だけを渡すことです。

悪い例:「新人の受け入れ準備、任せたから。よろしくね」
良い例:「新人の受け入れ準備をお願いしたい。初日の流れと、最初の1週間の予定表を作るところまでがあなたの担当で、席の配置はあなたが決めていい。来週の水曜に一度、途中の案を見せてほしい。費用がかかるものだけは、先に相談して」

つまり、何を達成してほしいか、どこまで自分で決めてよいか、期限、途中で報告してほしい時点、すぐに相談してほしい条件の5つを伝えます。一方で、細かい手順まですべて管理職が決めてしまうと、部下が判断する余地がなくなります。目的と範囲を伝えたら、その中のやり方は部下に任せます。指示の出し方そのものは「部下への指示の出し方と注意の仕方」でもご紹介しています。

「もっと経営者目線を持って」

管理職自身も、上司からこう言われたことがあるかもしれません。言われた側は何を変えればよいのかが分からないので、「はい」と答えるしかないのです。

悪い例:「もっと経営者目線を持って、全体を見てくれないかな」
良い例:「今は、自分の課の残業を減らすことを一番に考えてくれていると思う。部長は、隣の課の納期も含めて、部全体で期限を守れるかを見ているんだ。来月から、課の予定を組むときに、隣の課の締め切りも一緒に確認してほしい」

今どこを見ているのか、一段上の立場では何を判断しているのか、自分の役割をどこまで広げてほしいのかを、具体的な行動で伝えます。このとき、責任だけを広げて、判断に必要な情報や権限を渡さないままにしないことも大切です。

新任管理職の指示の出し方や任せ方を、研修で見直したい企業の方へ。株式会社あたまの管理職研修「考え方×伝え方」では、受講者ご自身の部下の場面を題材にして、部下に伝える言葉を作るところまで行います。管理職研修のご案内はこちら

管理職研修の内容例|3時間で行う「考え方×伝え方」の4つのワーク

では、こうした言い方を研修でどう変えていくのか。株式会社あたまの管理職研修「考え方×伝え方」は、講義3割、ワーク7割の割合で進めます。3時間で行う場合の流れは、たとえば次のようになります。

管理職研修「考え方×伝え方」3時間の進め方の例:導入15分、ワーク1(話す前に決める4つのこと)45分、ワーク2(理由・進め方・行動の順に組む)40分、ワーク3(結論から話す形に組み替える)30分、ワーク4(部下役を相手に話してみる)50分

導入:最近うまくいったことを書いてから始める

研修の最初に、仕事でも私生活でもよいので、最近うまくいったことを1つ以上、3分で書いてもらいます。いきなり「部下指導の課題」から始めると、受講者は自分のできていないところばかりを探してしまうからです。先に自分がうまくいった経験を思い出しておくと、そのときに何をしたのかが、あとで部下に伝える内容を考える材料になります。

あわせて、ワークのルールとして「考える前に『分かりません』で終わらせない」「他の人の意見をすぐに否定しない」「人の発言を途中でさえぎらない」の3つを共有します。

ワーク1:部下と話す前に決める4つのこと

受講者は、自分の部下との場面を1つ選び、①部下にしてほしい行動、②部下の今の行動、③その差、④部下がまだ理解していないこと、の4つを書き出します。研修では「この研修が終わったあと、あなたの部下がどんな行動を取れるようになっていたら最高ですか」と聞くところから始めます。

ここで注意するのは、今の行動を「やる気がない」「報告が遅い」といった印象で書かないことです。「先週の納期遅れは、3日後の定例会議で初めて聞いた」のように、いつ何が起きたかを書きます。4つの書き方と職場の会話例は「部下指導の方法|上手い上司が話す前に決める4つのことと会話例」で詳しくご紹介しています。

ワーク2:理由・進め方・行動の順に組み立てる

次に、ワーク1で書いた「部下がまだ理解していないこと」を、部下にとっての得や困りごとの言葉に言い換えます。管理職の都合のまま「報告を早くしてほしい」と言っても、部下には自分に関係のある話に聞こえないからです。

  • 管理職の言葉:「トラブルは早く報告してほしい」
  • 部下にとっての得に言い換える:「早く聞ければ、先方への連絡を私が先に打てるので、あなたが一人で抱え込まずに済む」
  • つまり一言で:「一人で抱え込まないため」

そのうえで、なぜ必要か(理由)、どう進めるか(進め方)、具体的に何をするか(行動)の順に、部下に話す内容を組み立てます。

ワーク3:結論から話す形に組み替える

ただし、理由から話す順番がいつも合うとは限りません。部下が忙しいときや急ぎの指示を出すときは、背景から話し始めると、結論にたどり着く前に聞いてもらえなくなります。そこでワーク3では、ワーク2で作った内容を、結論・理由・具体例・結論の順(PREP法)に組み替えます。行動を一行の結論にし、理由を「なぜなら」で始まる文に直し、受講者が実際に見聞きした出来事を具体例として1つ加えます。

理由から話すか結論から話すかは、部下が話を聞く余裕があるかどうかで選びます。研修で両方の形を作っておくので、職場では場面に合わせて使い分けられます。

ワーク4:部下役を相手に、実際に話してみる

最後に、受講者同士で管理職役と部下役に分かれ、作った内容を声に出して話します。紙に書いたときは分かりやすく見えても、声に出すと長すぎる、順番が分かりにくい、言いにくい言葉がある、といったことに気づきます。部下役は、分からなかったところで「なぜですか」「具体的には何をすればいいですか」と質問し、管理職役はその場で言い直します。

部下との面談では、部下自身の評価を先に聞いてから話します

管理職研修では、指示を出す場面に加えて、部下との面談の練習も行います。面談がうまくいかない管理職の多くは、部下が話し始める前に、自分の評価を先に伝えてしまっています。

悪い例
上司「今回のプレゼン、資料の作り込みが足りなかったね。次は前日までに見せてくれる?」
部下「……はい、すみません」

良い例
上司「今回のプレゼン、自分ではどうだったと思う?」
部下「後半の数字の説明で、質問にうまく答えられませんでした」
上司「そこは私も気になっていた。うまくいったところは?」
部下「最初の課題の説明は、先方もうなずいていたと思います」
上司「そうだね、あそこは分かりやすかった。次に変えるならどこにする?」
部下「数字の根拠を、前日までに課長に一度見てもらいます」

部下がすでに問題に気づいているなら、上司が同じことを長く説明する必要はありません。上司と部下の見方が違うところだけを話せばよいのです。また、部下が「次は気をつけます」と答えたときは、「具体的には何をする?」と聞き、行動まで決めます。

同じように、部下の報告や提案を聞くときは、話を結論・理由・具体例に分けて聞くと、どこが足りないのかが分かります。「話が飛んでいる」とまとめて指摘するより、「結論は分かった。そう考えた理由をもう一度教えてくれる?」と、足りないところだけを質問できるからです。

研修の効果は、評判より部下への話し方が変わったかで確かめます

研修のあとのアンケートで「分かりやすかった」「満足した」という声が多くても、それだけで研修の効果があったとは言えません。研修を企画する人事・経営者の方が確かめたいのは、管理職の部下への話し方や任せ方が変わったかどうかです。

そこで、研修を企画する段階で、次の3つを決めておきます。

  • 研修のあと、管理職にどんな行動を取ってほしいか(例:部下に仕事を任せるときは、範囲・期限・相談の条件を必ず伝える)
  • その行動を、いつ、誰が確かめるか(例:1か月後に、部下との面談の記録を部長が見る)
  • 研修で作った言葉を、職場のどの場面で試すか(例:来週の朝礼、次の部下との面談)

研修の前に「どうなってほしいか」を行動で書いておけば、研修のあとに何を見ればよいかがはっきりします。これは、ワーク1で管理職が部下について考えることと同じです。株式会社あたまの研修では、研修後3か月のフォロー(無料)の中で、研修後の課題提出や会議のサポートも行っています。

まとめ

管理職研修のポイントを、3つにまとめます。

  • 管理職研修では、知識の一覧より、管理職の判断基準を部下が動ける言葉にする練習に時間をかける
  • 「自分で考えて」「任せた」「経営者目線を持って」は、目的・範囲・具体的な行動まで伝える言い方に変える
  • 研修の前に、研修のあと管理職にどんな行動を取ってほしいかを決め、職場で確かめる

明日、管理職の方に「最近、部下に任せた仕事」を1つ挙げてもらい、そのときに範囲・期限・相談の条件を伝えたかを聞いてみてください。3つのうち抜けていたものが、管理職研修で最初に扱うテーマです。

管理職研修のご相談

株式会社あたまでは、管理職研修「考え方×伝え方」を行っています。この記事でご紹介した、部下と話す前に決める4つのこと、理由・進め方・行動の組み立て、結論から話す形への組み替え、ロールプレイを、受講者ご自身の部下の場面を題材にして行います。内容は、貴社の業務内容と、管理職の方が日々直面している場面をうかがってから組み立てます。研修後3か月のフォロー(無料)があります。

社内で管理職研修を検討している人事・研修担当の方には、研修テーマと料金をまとめた資料(PDF・5ページ)をご用意しています。研修資料をダウンロードする ご相談はお問い合わせフォームから受け付けています。